見出し画像

ビルマの堤琴(バイオリン)

2022年2月11日にオーケストラダスビダーニャ(通称ダスビ)の演奏会があります。
この演奏会では毎回40ページを超える同人誌的プログラムパンフレットが配布されるのですが、そこに寄稿させてもらったので演奏会の宣伝も兼ねて、noteにも転載しておきます。
もし演奏会に来たくなったらチケットを手配するので気軽に言ってくださいませ。

オーケストラダスビダーニャ
http://www.dasubi.org/

チケット販売ページ
https://teket.jp/2487/9367

2年前、ミャンマーでバイオリンを買った

無職生活を満喫していたらキビシイおじさんに捕まって、2019年末からミャンマー関係の仕事をすることになった。
そのため2020年のダスビの本番の頃は、日本とミャンマーを往復しながら仕事をしていて、参加できるか厳しい状況だったんだよね。

でも、土曜のダスビの練習後の夜のフライトでミャンマーに飛んで、2週間ミャンマーに滞在して、土曜の朝に日本に帰ってきて、練習や本番に出る、というわりと強引なやりくりでなんとか無事に本番を迎えることができた。バイオリンの同志達にはいろいろとご迷惑をかけてしまったけど、やっぱり2年前の本番は楽しかったなあ。

バイオリンは機内持ちこみができるのでミャンマーにも持っていけた。
なので、ミャンマーでも、弾けねー、と言いつつ泣きながら練習はしてた。ただまあやっぱり、毎回持ちこむのは面倒。
安いバイオリンとか現地で売ってないのかなあ、と探してみたけど弦楽器専門の店というのは、まだミャンマーにはないみたいだ。
オーケストラという文化自体がまだミャンマーにはあまり根付いていないっぽい。
まあオーケストラが沢山ある日本が世界的に特殊すぎるのかもしれないんだけど。

でもある日ショッピングモールを回っていたら、ギターショップの片隅にバイオリンが陳列されてるのを見付けたのよ。
店員さんに声をかけて、片言の英語や翻訳アプリを使ってあれこれ会話しつつ、試奏させてもらった。
チューニングは全然合ってない。
渡された弓はなぜか、3/4サイズ。
松脂は南国仕様なのか硬すぎて全然弓に付かない。
なんだこれ、と思いつつも、それなりにちゃんと音は出る。
どこの国で作ってるんだろう、とラベルを見ると、Made in China と書いてある。
お値段は驚きの165,000チャット(現地の通貨単位)、日本円で12,500円ほど。

ミャンマー生活での娯楽用品しては悪くないな、と思って、これください、と言ったら、3人の店員が全員寄ってきて、いきなり全員で愛想良く挨拶してきたよ。
日本の感覚だと格安な楽器だけど、現地の感覚だと大金なんだろうね。
お金持ちだと思われたっぽい。
もっと新しい楽器があるから、そっちをセットアップするね、と持ってきたものは、駒は倒れてるし、弦は緩みまくってるし、確かに新品っぽいねえ、何もしてないっぽいねえ、という代物。
弓は標準的な長さだったのでちょっとだけ安心。
弦と松脂とケースはプレゼントするよ、調子が悪くなったら持ってくれば永久に修理するよ、と言われつつ3人に見送られて店を出たよ。

日本で調整

COVID-19の関係もあり、2020年の3月末に一旦日本に帰国。
買ったバイオリンはミャンマーに置きっぱなしだと、雨季で確実にカビが生えそうなので、日本に持ってきた。
駒とか根柱とか弓とかあきらかにあやしい気がしたので、いちおう調整してもらおうかな、と思い、ダスビのバイオリンの同志であるRさんにお預け。
下品な感じにテキトーに調整して、とオーダー。
そんな依頼始めてだよ、と言われつつも、そんな風に仕上げてもらった。さすが。
ついでにバイオリンケースももらった。ありがたや。

ミャンマーへ渡航、ダスビへの参加断念

2020年の春から夏の間は、COVID-19の影響でミャンマーへ渡航できる状況ではなかった。
でもずっと日本にいても仕方がないので、いろいろ調整をした結果、10月に特別便でミャンマーに渡航することができた。
調整してもらったバイオリンもミャンマーに里帰り。
隔離ホテルで最初に弾いたのは10番の2楽章。
渡航の段階では、2021年のダスビの演奏会は、年末と本番前に帰国できればなんとか参加できるかな、と思っていたのよね。
でも残念ながらCOVID-19はまったく収束しなかった。
年末は帰国できる状況ではなく、2021年のダスビの演奏会参加も断念するしかなかった。
残念無念。

南の国で年末年始

ミャンマーでは10月から3月までは乾季、気温は30度以上あるけど湿度は低く、とても過ごしやすい。
夏の北海道に近い感じ。
ダスビの演奏会には出られなくなっちゃったけど、寒くない年末年始も良いものだなあ、そんなことを考えて過ごしていた。
下品な音に調整したバイオリンで弾くのはやっぱりフィドルの曲だよなあ、と思ってアメリカのAmazonからフィドルの楽譜を取りよせて弾いたりもした。

せっかくミャンマーに来たならビルマの竪琴ごっこもしたくなるよね。
ビルマの竪琴というのは、何度も映画や戯曲になっているわりとイイ話。
主人公は、ミャンマー(ビルマ)での戦争で沢山亡くなった日本兵の霊を慰めるため、僧になって日本に帰国せずミャンマーに留まる水島上等兵。
でもねえ、水島上等兵は単にミャンマーが気に入ったから現地に残ったんじゃないの?、という気もするんだよね。
そのぐらいミャンマーは地上の楽園感がある良い国なんだよ。
人々優しく真面目で、食べ物もおいしく、温かい。
仏教の国で、お坊さんがとても大切にされている。

ショッピングモールの楽器屋さんに竪琴(サウン・ガウ)が並んでたので衝動買い。
そして、ネット通販で僧衣とオウムのぬいぐるみとバリカンを買って、頭を丸めてコスプレ撮影をしてみたりもしたよ。
ちなみにバイオリンの漢字表記は提琴(ていきん)なのでこの文のタイトルはビルマの提琴にしております。

水島上等兵のコスプレをする筆者

ダスビの演奏会延期、クーデター発生

1月になってもCOVID-19は収束せず、ついにダスビの演奏会も1年延期になってしまった。
参加は断念してたけれど、やっぱり中止の連絡を聞くと心が沈む。
なんか悪いニュースばかりだなあ、とか思ってたら、さらに良くないことが起きてしまった。
2月1日にミャンマーでクーデターが発生したのだ。

最初の頃はわりと平和だったんだけど、しばらくすると、軍が民衆に発砲したり暴力をふるったり、インターネットが止まったり、心が沈むような話も沢山聞いた。
血の日曜日とか、天安門とか、軍が民衆に発砲した歴史的事件はいくつかあるけど、まさか現代においてそんな状況に巻きこまれるとは思わなかったよ。

なんとか3月に航空機のチケットを確保して、日本に帰国。

ショスタコーヴィチの音楽を聴きながら思うこと

ショスタコーヴィチの音楽には激動の時代背景が色濃く反映されている。
革命から社会主義体制の確立、2回の世界大戦、当局による粛清。
ショスタコーヴィチ自身も生きていくためには様々な矛盾を抱える必要もあったんだろう。

昔は大変だったんだねえ、みたいなライト感覚で聴いていることが多かったんだけど、ミャンマーの状況を経験してしまい、他人事感がなくなってしまった。
特に、1905年の状況をテーマにした11番、ユダヤ人虐殺や人の生き方について歌った13番なんかをあらためて聴くと、とても心に響いてしまうんだ。
ショスタコーヴィチ自身が当時感じた心の叫びが曲に埋めこまれていて、それを改めて同じように体験している感覚になってくる。

昔は、ちょっと頭がおかしい無駄に格好良い音楽、として聴いてただけだったのになあ。。。

今後の世界に望むこと

2021年はミャンマー以外にも軍事クーデターが発生してしまった国がいくつかあった。

国際紛争、貧困問題、ジェノサイド、なんかの酷い状況もあまり改善はしていない。
それに加えて、COVID-19はまだ収まる気配はない。
政治腐敗みたいなのは昔からあったのかもしれないけど、より目立つようになってきた。
有名人が自殺しちゃったり。
とにかく暗いニュースが多すぎるのよね。

でも、暗い気分になったら、13番の2楽章を聴くと元気になるよ。

ユーモアは不滅だ!
このユーモアに栄光あれ!
ユーモアは勇気のある人間だ。

とりあえず人と人とが繋って、何があっても笑っていられれば良いんだろうね。

インターネットは人と人とを繋げる道具だと思っている。
みんなもっとインターネットを活用して、面白いこと、良かったことを、発信しまくって、イイネしまくれば、気持ちも明るくなっていくと思うんだ。

さて、2022年のダスビの演奏会は、わりと明るく楽しい、9番10番なんだよね。
聴いてみて、良かったなあ、と感じたらカジュアルにインターネットのどこかに書きこんで欲しいんだ。
団員はそれを探して見てニマニマしながら読めせてもらいますよ。
みんなでゆるく繋がって温かい気持ちになれると良いね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?