この50年で人類は急激に死にづらくなったという話


よく「今は変化の激しい不安定な時代」というワードを聞くしそれはまぁその通りなんだけど、
実際のところ生命の生存競争としてみたらこの50年って人類600万年の歴史の中でも異常な超安定期でもあるよねという話を書いていきます。


人類は死にづらくなった

いきなり本題だが、人類は急激に死にづらくなっている。
以下2つのチャートが示す通り「世界人口」「世界平均寿命」ともに爆発的な伸びをしているのはせいぜいこの200年程度。
少し前までの人類は20~30歳程度で死ぬのが当たり前だった。


グラフ : こっちは人口。この200年で爆伸び。

画像1

グラフ : こっちが平均寿命。これもこの200年で一気に長くなった。

画像2


んで、いくつか本を読んでの僕の勝手なイメージだけど、ざっくり以下のようなステージ感で人類にとって死の身近さというのは変化していったように感じる。


●ステージ1 : 人類誕生~10,000年前
狩猟生活。基本他の動物と同じなので生存競争の中で日常的に死ぬ

●ステージ2 : 10,000年前~200年前
農耕生活。大規模な社会が生まれたけど疫病・飢饉・戦争で定期的に死ぬ。生まれ落ちた階級ガチャでも理不尽に死ぬ

●ステージ3 : 200年前~50年前
産業革命以降。外部エネルギー(石炭等)を活用できるようになり衣食住急改善したことで死が身近でなくなった一方で、政治判断で突発的に数百万人単位が死ぬ

●ステージ4 : 50年前~今
冷戦以降。理不尽は世界から完全には消えていないが、死は身近ではないし、突発的に数百万人死ぬこともなくなった超安定期


ということで、ここから各ステージをサクッと。


ステージ1 : 人類誕生~10,000年前、日常的に死ぬ時代。

まだ狩猟生活をしてた時代。
ヒトは他の動物と違って道具を使うことで身体能力を拡張したわけだけど、逆に言うと道具を使う以外は基本他の動物と同じ
ヒトを含めたあらゆる動物の生態系の中で、日常的に死んでいた。
平均寿命10歳代なので、犬より長いくらい。


ステージ2 : 10,000年前~200年前、定期的に死ぬ時代。

人類が農耕を発明した後の時代。
狩りと違って農作物は蓄えることが出来るので、農耕の発明が「余剰」を生みそれが経済を生み出したとどっかの本で読みました。賢い人はよく考えるもんですね。
農耕の発明は人類にとっては革命的な変化ではあったものの、疫病・飢饉・戦争の三つを人類は克服できず定期的にこれらが発生する世界。

例えば、14世紀に大流行したペストでは7,500万人が死に、中心地の欧州では人口が半分になった。(例えば今問題の新型肺炎の死者数は現時点で2,000名強なのでいかに大規模流行かがわかる)

食料生産が天候頼みのため、数十万人単位で死ぬ飢饉も世界のどこかでは常に発生しているレベル。

ついでに、集住することで社会が生まれ階級が発生したが、人権なんて概念は当然存在しないので生まれ落ちた瞬間の階級ガチャによっては理不尽に死ぬケースもある。


ステージ3 : 200年前〜50年前、死が身近でなくなったが突発的に数百万人単位が死ぬ時代

産業革命以降の時代。
人間の生産性はローマ時代から産業革命前まで1,500年弱で2倍しか伸びなかったのに、産業革命後の200年で50~100倍伸びたらしい。

産業革命というと蒸気機関とかが思い浮かぶけど、産業革命の本質は人類が外部のエネルギー(石炭とか)を利用できるようになったことだとずいぶん前に読んだ「エネルギー論争の盲点」という本に書いてあった。なるほどなと。

外部エネルギーを使えるようになったことで衣食住のレベルが急激にあがり、それにより一気に寿命が伸び人口も増えた
実際、冒頭に出した二つのチャート見ても200年前くらい(産業革命以降)から一気に平均寿命と人口は伸びている。人類にとって死は身近なものではなくなった。

一方その反作用として誤った政治判断によって突発的に数百万人単位が死ぬケースが散発的に発生している。
昨日からyoutubeでNHKの映像の世紀を見るのにハマっていたのだが、「〇〇によってXX百万人が亡くなった」というのが20分に一回くらいでてきてビビる。桁数間違えてない?マジで?
例えば以下。

ポルポトの虐殺:200万人
ナチスホロコースト:600万
スターリンの大粛清 : 1,200万人
中国大躍進政策:3,000万人
第二次世界大戦:6,000万人
*数値はネットで適当にひっぱったものなので、正確さよりもそのボリューム感をつかむ意味でとらえて下さい。

長きにわたって人類を苦しめた疫病や飢饉での死が減った一方で、最も多く人が人を殺した時代でもある。


ステージ4:50年前~今、死は身近ではないし、突発的に数百万人死ぬこともなくなった超安定期

冷戦以降の時代。
疫病や飢饉は完全には克服できていないが、その被害規模を最小化することに人類は成功している。

例えばSARSは死者数700人強、今問題になっている新型肺炎も現時点で2,000名強と、14世紀のペストなどに比べればその規模感はケタ違いに小さくすることができている
飢餓の問題も世界から消えていないが、少なくとも中世のような短期で数十万人なくなるレベルの飢饉は発生しなくなった。

また、政治判断によって突発的に人が死ぬケースも少なくなっている。
イラク戦争など含め、少なくとも前述したような数百万人以上がなくなるというケースは僕の知る限りは冷戦以降ない。

蛇足だけど、何が戦争を減らすのかという研究があって、それによると「世界の貿易量」と「多国間軍事同盟の量」の二つが戦争を減らすらしい。

世界平和を祈るよりもどんどんグローバルでの貿易量を増やして、同盟関係も結んでおくと、戦争のコストの方が高くつくようになる。
実際世界の貿易量は第二次世界大戦以降急増している。

もう一つ加えるなら、ベトナム戦争以降はTVが一日単位で世界に惨状を伝えたことで、また最近のパレスチナなどではSNSがリアルタイムに世界に非人道的行為を告発したことで、被害が大規模化する前に止める抑止力になっている面もあると思う。



こうやって見ていくと冒頭に書いた通り、この50年って人類600万年の歴史の中でも異常な超安定期でもあるよねと改めて感じる。


なので、

●経済レイヤーとして「変化の激しい不安定な時代」になっている背景として、実は生存競争レイヤーの「人類は空前絶後の超安定期にいる」というのがあるんじゃないか。

●言い方を変えると、生存競争レイヤーで心配しないで良い安定した社会を世界が作れているからこそ、経済レイヤーに集中して前向きな変化をどんどん起こせてる(その結果を我々が変化の激しい不安定な時代と捉えている)のではないか。

というのをふと思いましたとさ。
おしまい。


蛇足
これだけ世界の平均寿命が伸びる中、貧困と社会荒廃(ドラッグとか)にあえぐアメリカの地方白人労働者層は直近3年くらい平気寿命短くなってるというのをビルビリーエレジーという本で読んだ。
イギリスでも白人労働者階級が被差別層になってきているというのも最近読んだし、昔みたいな白人→有色人種みたいなシンプルな構図じゃなくなってるな感。

補足1
もちろん1,000万人だろうと1人であろうと、不条理な死というのは痛ましいものであるという大前提で、このnoteでは敢えて数に着目しています。
補足2
このnoteで書いたような話に興味ある人は以下の本がオススメです。
・サピエンス全史
・ファクトフルネス
・ヒトはこうして増えてきた
・エネルギー論争の盲点
・映像の世紀 (本じゃないけどyoutubeで見ると止まりません)


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