2020305スノードーム

【小説】スノードームと灰色猫の冒険(2)

🐈 第2話 スノードームの国へ 🐈


「スノードームの国はどこにあるの?」
「この中じゃよ」

おじいさんはニッコリ微笑むと、メアリに小さなスノードームを手渡した。

「この、、中?たしかにこれはスノードームだけど、、?」
「さあ、行くなら急ごう」

灰色猫は二人を急かすように玄関へ駆け出した。

「待った待った!メアリ、弁当は持ってきとるか?」
「うん。二人分だけど、猫ちゃんは干し芋でいい?」
「メアリ、実は猫の私は干し芋を沢山は食べる事ができない。さっきみたいに一口だけなら大丈夫だ。それに私の食べ物は向こうに行けばある」
「そうだったんだ。じゃあさっきは無理して食べたの?私干し芋大好きだから猫ちゃんもそうかなと思って、、、ごめんね」
「謝ることはない、おいしかったよ。ありがとうメアリ」

灰色猫とメアリは見つめ合ってうふふと笑った。

「さあさあメアリ、バスケットじゃ移動が面倒じゃから、このリュックに入れるといい」

おじいさんはアトリエ奥の棚から赤いリュックを取り出した。メアリは古めかしいリュックに荷物を詰め替え、外側についたポケットに小さなスノードームをいくつか入れて灰色猫と外へ出た。おじいさんも必要な道具と小さなスノードームを詰めたリュックを背負うと家の鍵をしっかりとかけた。小川とは反対側の、家の裏手から森の方へと向かう。しばらく進んで森を抜けると草原が見えてきた。おじいさんは辺りに人影がないか確認しうんうんと頷きながら、

「ここらでいいじゃろ」

リュックから小さなスノードームを一つ取り出すと、底についているゼンマイをキリキリと巻き地面に置いた。

「さ、下がって下がって」

おじいさんは右手を後ろに振りながら後ずさりした。地面に置いた小さなスノードームからカッチコッチと時計のような音が鳴りはじめ、30秒ほど経つと、カチリ!チーン!とホテルのフロントに置いてあるベルのような小気味よい音がした。メアリがごくりと息をひそめて見守っていると、スノードームのガラスが開き、中から細い針金のようなものが幾つも伸びてシュルシュルと音を立てながら家の骨組みを形づくり、ポーンと音がしたかと思うと白い鳩が飛び出し、舞い上がると骨組みの上を旋回しはじめた。

白い鳩が旋回しているそのすぐ下からは、透き通ってキラキラした雪のようなものが降り注ぎ、家の骨組みにかかると、まず壁が現れドアや窓、屋根、煙突が出来上がっていった。屋根のすぐ下の玄関ドアとの間にある小窓が開くと、白い鳩は小窓の入り口に止まり「ポッポー、ポッポー、ポッポー♪」と3回鳴くと小窓の中へ引っ込みパタリと小窓が閉まった。それから玄関のドアの鍵がガチャリと開く音がした。

「わぁー!おじいちゃんの家そっくり!もう一回見たいー!」

メアリがぴょんぴょん跳ねながら喜んでいると灰色猫は、

「メアリ、今からこの家の中に入る。中ではじいさんにくっついて動かないように。この中はとても危険だから勝手な行動はしない事。いいね」
「はい!猫ちゃん」

ドアを開け中に入ると中もおじいさんの家とよく似ている。ドアを閉め鍵をかけるとまたカッチコッチと音が鳴りはじめた。それに合わせるかのようにメアリの鼓動は速くなっていく。メアリはおじいさんにしっかりとしがみつき、灰色猫はメアリの足元を守るように座った。おじいさんはポケットから羅針盤を取り出しメアリに見せた。羅針盤の針が速くなったりゆっくりになったり逆向きになったりしながらクルクルと回り続けている。

「どうなってるの?」
「ここは人間界とスノードームの国の狭間じゃな。ドア以外から出ると迷って永遠に戻っては来れなくなるんじゃ。だから慎重に行動しなくてはいかんのじゃよ」
「、、、わかった」

メアリは少し緊張しながら頷いた。3分ほど経っただろうか、カチリ、チーン!と音が鳴った。

「着いたようじゃな。今度はどこに出るかの?こないだみたいな崖っぷちはごめんじゃぞ」
「開けてみるしかない」

灰色猫はメアリの足元から少し離れるとメアリを見上げ、

「メアリ、旅の安全の為、外に出たらおまじないをする。それから私が先に行くから後をついてくるんだ。決して私より前に出ないように」
「わかった猫ちゃん!」
「さ、開けるぞ」

おじいさんがドアを開けると、一面真っ白な世界が広がっていた。

「ここはどこらへんじゃ?」
「崖ではないようだ。よかったなじいさん」

灰色猫が一歩踏み出し左右を見渡すと、丘の中腹のようだった。

「では、メアリこちらに」
「はい」

メアリは緊張しながらドアから一歩踏み出てみた。足元からサクッという音がして、メアリの全身を楽しさの波が襲った。そうだ、これは霜柱や枯れ草を踏んだ時のようなわくわくする気持ちだ。楽しくなってその場で何度も足踏みしていると、灰色猫が、

「メアリ、メアリ!そこにしゃがんで。そして目を閉じて。いいと言うまで目を開けないように」
「あっ!はい」

メアリが、はっとして言われたとうりにすると、灰色猫はおまじないの呪文をかけはじめた。

「東の山の青い鳥、青い羽根、飛び立ちなびく青い羽根、雲に隠れて守られて、青い鳥、青い羽根、春の草木に守られて、夏の花に彩られ、秋の落ち葉にくるまれて、冬の雪に助けられ、青い鳥、青い羽根」

<なんだか暖かくなってきた、、?>

「メアリ、目を開けていいよ」
「おまじない、効くの?」
「迷信だけどね、効き目はあるんだ。きっとメアリを守ってくれるよ」
「フン!猫め、しゃれたことをしてくれるわい」

おじいさんは一本取られたという顔をして笑った。

灰色猫を先頭に丘を上っていくと遠くの森の向こうに城が見えてきた。メアリは嬉しくなって思わず駆け出してしまった。

「わぁ!お城!あそこへ行くの?」
「メアリ待つんだ!先に行ってはいけない!」
「あっ、ごめんなさい」

灰色猫はメアリの前に出ると、

「ここは人間界とは違う、今見えている地面は目には見えなくても穴が開いていたり、別の生き物が寝ていたりするんだ。だから必ず私の後ろをついてくるように」

灰色猫は諭すように静かな声でゆっくりと話した。

「はい、、!」

メアリはさっきまで楽しさでいっぱいだったのに少し怖くなった。

灰色猫は白い灰の上をサクサクと音を立てながら進んだ。メアリは足元に気を付けながらその後に続き、おじいさんはやれやれという感じでついていった。城を囲んでいる森の入り口辺りまで来ると、城から飛んできた白いフクロウが灰色猫に何か告げ、また城へと飛んで行った。

「少しここで待とう。迎えが来るそうだ」

「それにしてもどこもかしこも灰だらけじゃな。こんな酷いのは見たことない」
「いつもなら消えていくはずのキラキラが積もったままになってしまっているんだ」
「キラキラって、スノードームの中にある雪みたいな?」
「そう、そのキラキラは持ち主がスノードームを振らないと消えないんだ。つまり今積もってる灰は忘れ去られたスノードーム達のキラキラなんだ」
「あの綺麗なキラキラが灰になっちゃうなんて、知らなかった」

「スノードームを見るとメアリはどんな気持ちになる?」
「うーん、キラキラが綺麗でー、可愛くてー、嬉しくてー、楽しくなる!」
「人間界で誰かがスノードームを振るとな、こっちの天使達が祝福をするんじゃ。だからスノードームを見ると幸せを感じるんじゃな」
「そうだったんだ。じゃあ灰が積もってるのは幸せじゃない人が増えてるって事?」
「そうかもしれん。それとも悪魔達がなにか始めたのかも、、じゃな、、」

おじいさんがそう言いながら灰色猫と目を合わせ頷いていると、バサッ!バサッ!と大きな羽音がしたので空を見上げると、 

「お迎えにあがりました。どうぞお乗りください」

真っ白なドラゴンが現れ、着地すると羽根を下げて背中に乗るようにと促された。メアリはぽかんと口を開け固まってしまった。

「ドラゴン、、」
「おいおいメアリ大丈夫か?しっかりせえ!まだまだこれからじゃぞ、ハハハハッ」

おじいさんは楽しそうに笑いながら、固まって動けないメアリを支えてドラゴンの背中に乗せた。灰色猫も飛び乗ると一言、

「リアナ、頼む」
「おまかせを」

真っ白なドラゴンはふわりと飛び立つとゆっくりと城の方へ向かった。ドラゴンの背に乗って髪をなびかせ風を感じていたメアリは、これは夢ではないだろうか、ここから落ちたら目が覚めてベッドの上だったりして。なんて事を考えていた。

「メアリ、これから女王に会う。女王は、その、ちょっと態度は冷たいが悪い人ではない。このスノードームの国を守る為に力を尽くしてくれている」
「うん」
<女王様ってもしかしてママ、、?>
「しかし、女王はじいさんを連れて来る事は知っているが、メアリ、君の事は予定外だ。だから、その、女王は、、、怒る、かもしれない」
「なんじゃそりゃ。よっぽど女王が怖いんじゃな、この猫は」
「女王は平気で尻尾を踏むからな。誰に似たのか」
「猫、女王の悪口はそこまでじゃ。命が惜しいならな」 
<ママじゃないような気がしてきた、、>

「皆様~、噴水前に降ります~、ご注意ください~」

真っ白なドラゴンは城の前にある噴水のそばにゆっくりと着地した。灰色猫が先に飛び降りると、噴水そばに待機していた従者がやってきて、メアリとおじいさんが降りるのを手伝っている。そこへ女王が城からいそいそと出てきて、真っ先にメアリに歩み寄った。

「まぁまぁ!これはなんて可愛らしい!ようこそスノードームの国へ」

女王は珍しい物を見るかのようにメアリから目を離さないので、メアリは緊張してしまい気を付けのポーズで動けずにいる。横にいたおじいさんへ助けての目線を送ると、

「女王、お久しぶりでございますな。お元気でいらしたかの?」
「ええもちろん。ビクター、あなたもお元気そうで何よりです。それで、こちらの可愛い方はどなた?」

女王とおじいさんは握手をしてお互いを懐かしんだ。

「この子はメアリ、わしの孫ですじゃ。メアリ、女王に挨拶じゃ」
<写真立てのママと似てる、、ママなの、、?でも、、違うかも、、>
「は、はじめまして女王様。メアリと申します」
「はじめましてメアリ。女王のジェーンです。よろしくね」
<ジェーン、、やっぱりママと同じ名前、、>

女王がメアリに握手を求めると、メアリは動揺しながらもおずおずと手を差し出した。女王はメアリの小さな手を両手でしっかりと、そして柔らかい笑顔でメアリを見つめながら優しく手を握って頷いた。
<あったかい手、、猫ちゃんは怖がってたけど優しい、、>

「二人とも、よく来てくれましたね。詳しい事は中で話しましょう。疲れたでしょう?お茶でもいただきましょうね」

3人は城内へと歩きながら、

「そういえば、猫はどこに消えたんじゃ?」
「ヒュー?一緒にこちらに来たのではないの?」
「ドラゴンには乗っておったが、はて、どこへ行きおったんじゃ」
「ふふっ、私が呼べばすぐに来ます」
「ヒュー!ヒュー・ヴァレンタイン!」
<猫ちゃん、苗字まであるんだ>
「フン!まったく猫のくせに、こじゃれた名前じゃ」

女王が名を呼ぶと、突風のように灰色の毛玉が女王の足元に飛んできた。
灰色猫はクルクルッと起き上がると頭を下げ、

「女王、ただいま戻りました」
「ご苦労であった。お客を放ってどこへ行っていた?」
「西の海岸で異変があったと受信しましたので、通信室へ確認を取りに行っておりました」
「何!?それはまことか。急ぎ準備を!」
「はっ!」

灰色猫はすぐさま風のようにどこかへ飛んで行った。女王はその後ろ姿を真剣な目で追った。3人はまた歩きだし、

「ビクターとメアリはこちらへ」
「なんじゃ、女王が怖くて逃げたわけじゃなかったんじゃな」
「私が怖い!?あはは!、、そうね、たしかに私は怖いでしょうね、、」
「女王、ご自分を責めるでない」
「ありがとうビクター。でも違うのよ、これは演出なの。ふふっ、ヒューには言ってはいけませんよ?」
「そうじゃったか、あの猫はすぐ調子に乗るから女王も大変ですなぁ」
「あははは」

女王とおじいさんは楽しそうに笑いあっていたが、メアリは女王がママなのかどうかが気になってチラチラと女王を見てしまうのだった。

3人は城内の資料が置いてある部屋へと入った。部屋には壁一面の本棚と、床には宝箱のような箱が沢山並べてあり、広い机の上には本や地図や小さなスノードーム、木や家や動物をかたどったオブジェのようなものなどが置かれていた。床に置かれた箱の中にも丸めた紙がぎっしりと立てられている。何が入っているのか大きい袋や小さい袋なども沢山あり、メアリはあちこち調べたくてしょうがなかった。その時ドアがけたたましくノックされ、一人の男が入るなり、

「女王!西の海岸でクジラが瀕死です!」



◇◇◇ 第3話へ続く


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