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おいなりさんを食べるなら
流行りの味を追いかけるのも楽しいけれど、やっぱり定期的に食べたくなる昔ながらの味が大好きだ。東京に暮らし始めてもう12年。こんなに長い時間を過ごしていれば、30歳の私にも恋しくてたまらない味がいくつかある。
その1つが以前紹介した日暮里の羽二重団子であり、もう1つが今日紹介する、神田志乃多寿司だ。
神田志乃多寿司は私にとって完璧な存在であり、書こう書こうと思ってはいたものの、愛が深すぎたためなかなか言葉にすることができなかった本当に大好きな老舗だ。
「老舗の寿司」というと、ぎょっと構えてしまうかもしれないけれど安心して欲しい。神田志乃多寿司のウリは、ふっくらとした至高のおいなりさんなのだ。
甘いお揚げのなかには、やわらかいご飯と刻んだ生姜が入っている。一口噛めば、お揚げのじゅっと、ご飯のふわっと、生姜のかりっが重層的に口のなかにこだまする。むしゃむしゃ。うまい。次から次へと手が伸びる。
おいなりさんと共に入っている、かんぴょう巻もたまらない。じっくりと煮こまれたかんぴょうと、風味豊かな海苔。馴染みがなくても誰もが懐かしさを感じる、ほっとする味なのだ。
神田志乃多寿司は、新宿伊勢丹、東京大丸でも購入することができるが、できれば御茶ノ水と秋葉原の間に位置する神田須田町の本店にぜひ足を運んでみて欲しい。清潔な店内に入ると、カウンター越しには威勢のよい職人さんが立ち、その場でおいなりさんを詰めてくれる。わたしは訪れたことはないが、地階には食事を取るスペースもあるらしい。
そして志乃多寿司本店に行ったら、同じ通りにある近江屋洋菓子店にもぜひ行って欲しい。
クラシカルな店内に入れば、ケースのなかに整然と洋菓子が並び、まるで明治時代の貴婦人になったようなつもりで買い物が楽しめる。
神田須田町のあたりは戦災を免れた一角で、そのほかにも、古くからある名店がたくさん残っている。140年の歴史を誇るかんだやぶそば、鳥すきやきのぼたん、とんかつの万平(いま確認したら休業中だった)、純喫茶のショパン……。
再開発が進む都心にぽっかりと存在する、のどかで温かい空気を感じられるエリアなので、ぜひ足を運んでみてはどうだろうか。
わたしは、昨日わざわざ遠回りをしてこのエリアに立ち寄り、いつものように志乃多寿司で「しのだのり巻10個入り」と、近江屋洋菓子店で「レーズンサンド」を買って、仕事の鬱憤が雲散霧消するほどに幸せな気持ちになった。この幸せが2,000円以下で手に入るのだ。
この気持ちを多くの人と分かち合うべく、本日は筆をとった次第です。晴れた日のお出かけ候補に、ぜひどうぞ。
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