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いい香りに包まれて

ドールチェアーンドガッバーナーが流行っている。ということで香水について興味があるだろうか。わたしはといえば、全然なかった。香水をつける意味って何なのか、ずっと疑問だった。

過去、自分と香水の接点といえば中学生の頃に「香水をつけるのがカッコいい」みたいな文化があり、それに遅れるまいと買った数千円のもののみ。なので、香水というワードには思春期特有の痛々しさが思い出され、なんとなく「カッコつけアイテム」に分類してしまっていた。

それに自分のなかで、「香り」は「性」のイメージとどこか結びついてしまう感じがあった。「いい香り」というのは男女問わず、何かしら相手に惹きつけられる要因になる。そういうことから、自分は距離をおきたかった。

そんなふうに香水というものにわざと距離をとってきた自分だけど、実は最近、なんと香水をつけ始めるようになったのだ。きっかけは単純。めちゃくちゃ好きな香りと出会ったからだ。

その香りが、冒頭のヘッダー写真にも使ったオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーの「リケン・デコス」である。名前が長すぎて何度聞いても覚えられない。

リケン・デコスは「苔の香り」だと言われている。数多ある香りのなかから「これぞ!」と思った香りが、ローズとかではなく“苔”だったことがなんだか自分らしくて本当に笑ってしまったのだが、色に例えるとピンクやイエローといった感じではなく、濡れたグリーンのようだ。

香水というと、フローラルやバニラのような、基本的に甘い香りしかないと思っていたわたしにとって、リケン・デコスはイメージを覆すような香りだった。誰を惹きつけるわけでもなく、自分を喜ばす、自分のための香りだという気がした。こんな香りなら身につけていたいなと思った。

そしていま、わたしは新たな香水をもう1つお迎えしたいと考えている。それが、サンタ・マリア・ノヴェッラの「ポプリ」(こちらも名前が長すぎて何度聞いても覚えられない)。昨日ちょうど試させてもらったのだが、雨に濡れた枕木から香るような、深く落ち着いた香りに心がほぐされた。ポプリも、自分のための香りだという感じがした。浮き足立ちがちな自分を平常に戻したい時につけたい。

だけど正直、これらの香水ってわたしにとっては気軽に買える値段ではない。いつも、ごくんと息を飲んで決断する。だからこそ、それ以上のおすすめがある。

香りを身に着けるのもすごく楽しい行為だが、実はわたしにとってもっと好きかもしれないのが、香りを選ぶ行為だったりする。数十種類のなかから、1つずつ匂いを探す。初めは違いが全然わからない。途中から嗅ぎすぎて、もっとわからなくなる。だけどまずは何点かを選び、それらを比較してさらに絞り、最後の最後で1つを見つける。

好きな1つを見つけると、選んでいたのは香りのはずなのに、そこに自分を見つけたような気持ちになる。「わたしってこんな香りが好きなんだね」と自分を少し分かったようでうれしくなる。

香水を買わなくても、どの香りが好きなのかの探究は本当におすすめ。お金もかからないし、ぜひやってみて欲しい。まあ、好きな香りを見つけてしまったら最後、結局は手に入れたくなってしまうものなんだけど。

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