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掌編小説303(お題:違法の冷蔵庫)#ショートショートnote杯応募作品

六時過ぎ、やってきたのは作業着姿の男だった。

「本日は冷象庫の点検ということで」

僕が普段そうしているように、自然な動作で男は冷象庫の扉を開ける。上段が冷蔵室、下段が冷凍室になっている、なんの変哲もない冷象庫だった。見かけは。

「んー」庫内に顔を突っこんだまま男がうなる。

「やっぱりいませんか?」

落胆したのもつかのま、

「この部屋幽霊っています?」

男は顔を引っこめておもむろに訊いた。

「象の、じゃなくても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

「一応、洗面所に女性の幽霊なら」

男を洗面所に案内して、数分後。幽霊は冷象庫に入ることを快く引き受けてくれた。かくして、我が家の冷象庫は規定に準拠したれっきとした霊蔵庫となったのだった。

「ありがとうございました」男を見送る。

隣室からはカレーのにおいがした。あそこの冷象庫にはどんな象が入っているんだろう。冷凍室でいななくナウマンゾウを想像しながら、僕も部屋に引っこんで夕げの支度にとりかかった。

(410文字)


※ショートショートnote杯への応募作品です。


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