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掌編小説071(お題:付箋が足りない)
想いが日々募るばかりなので、あるとき、ミルクのように甘やかな白の便箋に克明に残る黒のインクで僕はきみの愛しいところを書きつけた。無垢の上に隙間なくしたたる生真面目な愛を気恥ずかしくも感じながら、それを町のポストへ投函する。
スコンと呑みこまれていった手紙の感触が消えぬうちに、鳥たちがさえずる朝、きみから一通の手紙が届く。
さっきの手紙のご用事、なあに?
生真面目な愛が溶けたミルクはどんな味がするのだろう。僕はきみの舌先にまだ残るその味を想像しながら、先のそれと寸分違わぬ手紙をこさえる。「手紙をうっかり食べてしまうおっちょこちょいなところも僕には愛おしい」たった今感じた愛おしさを綴る余白はしかしもうどこにもないので、それは、仕事に使うカスタードの色をした付箋に綴ってペタリと貼りつけた。しかし、二度目の手紙もきみはうっかり食べてしまうだろうと僕は気づいている。「この手紙を食べてしまったあとで、二度も食べてしまったわ、と僕に申し訳なく思うであろうきみの繊細な心も美しい」新たに綴った付箋も、となりにペタリと貼りつける。
スコン、とまたポストに手紙をやると、僕はその足でまっすぐ家に帰って新たな手紙を書きはじめる。三度目も四度目も、きみはきっと、うっかり手紙を食べてしまうだろうから。
そのうちミルクの便箋もカスタードの付箋も、生真面目に愛を綴ることさえたりなくなって、僕はとうとう、きみの家へむかう。
出迎えてくれたきみに、愛にまみれたたりない手紙を差しだす。「よかったらあなたもお食べになって」きみが紅茶とともに出してくれたのはやっぱり二度目に出した手紙で、僕はそれを食べながら、受けとった紙の束を一つひとつ恥ずかしそうに読むきみをながめている。
「私ったら!」
きみは声をあげて頬に手をやる。瞳がぶつかった。僕が微笑んでみせると、きみも困ったような顔でそれでも笑った。
ミルクとカスタードと愛が混ざりあった僕の手紙は、なるほど、たしかにとても美味しかった。
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