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『人新世の「資本論」』 斎藤幸平

SDGsは大衆のアヘンである!
この本ではこのように言い切って始まる。

第1章:気候変動と帝国的生活様式
気候変動が文明を危機に/フロンティアの消滅―市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義
第2章:気候ケインズ主義の限界
二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない
第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つ
なぜ資本主義では脱成長は不可能なのか
第4章:「人新世」のマルクス
地球を〈コモン〉として管理する/〈コモン〉を再建するためのコミュニズム/新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
生産力至上主義が生んだ幻想/資本の「包摂」によって無力になる私たち
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
貧しさの原因は資本主義
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
コロナ禍も「人新世」の産物/脱成長コミュニズムとは何か
第8章 気候正義という「梃子」
グローバル・サウスから世界へ
おわりにーー歴史を終わらせないために
(集英社新書 https://shinsho.shueisha.co.jp より)

昨今話題になっているSustainable Development Goals(SDGs)にNo!を突きつけるとまではいかないものの、ただただ妄信せずに現実をしっかり見ていこうね、と著者は強く主張している。私ははじめは、SDGsに関する本やビジネスが昨今発展しているのでそれに対して逆意見を唱える(ダイエット本が売れた後にダイエットなんていらない!とか、筋トレが流行った後に筋トレのいらないダイエット!が流行るとかそのような類の)本だと思い、少しため息の出るような感覚で買った(けどとっても面白かったです)。

まず人新世(ひとしんせい, じんしんせい)という地質年代が出てくる。これは産業革命以降、人間の影響で海洋・土壌・大気といった地球表層環境が大きく変化し他ことに由来して名付けられたものであるということらしい。実際コンクリートの建造物、海洋では何百・何千tのマイクロプラスチックが漂い、今まで存在していなかった化学物質は海洋に流出、CO2濃度はここ200年程度で約2倍になっている(CO2濃度は地球化学の視点で見ても明らかに以上な上昇度合い)。1000万年後の地質学者がこの時代の地層を調べたら、困惑して、きっと「何この時代の人類、やばっ」って言うと思います。

そのような環境に大きな変化が起きていることはもはや自明であり、もはやこれにNoを唱える人はおそらくその環境影響があると損をする会社の人とかなんだと思います。とにかくこのような影響は存在しますが、筆者はこの原因が「資本主義」そして、帝国的生活様式であると言う。

・外部化, グローバルサウス
まず「資本主義」においては、いつも「外部」を作り出し様々な負担を押し付けることによって成り立ってきた。私たちがワン・シーズン着ただけで気軽に捨ててしまうようなファスト・ファッションの洋服を作っているのは、劣悪な条件で働くバングラデシュの労働者たちであり、原料である綿花を栽培しているのは、インドの貧しい農民たちだ。彼らはグローバル化によって被害を受ける「グローバル・サウス」の住人である。

しかし、このような「外部」はもう消費され消耗しきっている。そして資本主義にとって「外部」とは、先進国以外の国の人々の労働力だけではない。地球環境も資本主義における「外部」であるのだ。森林を伐採して耕作地を広げ、それをバイオ燃料にしたり、ソーラーパネルを置く。燃料を消費しCO2を排出したり、埋蔵量を数百年で使い切る速度で資源採掘を行う、などなど。環境に対して何も行わないのであれば、もう二度と元の状態には戻れないだろう=この本ではポイント・オブ・ノーリターンと言う。

科学技術でこれに対抗できるだろ、環境投資すれば(グリーン・ニューディールとして知られる)環境も経済も両立できるやろ、オランダとかそれで成功してるじゃん、など様々な意見があるだろう。これについて著者は「オランダの誤謬」「気候ケインズ主義の限界」「ジェヴォンズのパラドックス」でそれも否定している。私はここら辺の話が特に面白かった。

このように様々な視点から資本主義の問題を突いている。

・脱成長コミュニズム

そして著者は「脱成長」の重要性を指摘する。そしてそれが資本主義とは相容れない存在であることも述べられている。

これに対して注目したのがマルクスである。
マルクスは、『資本論』第一巻刊行後に、ひそかにエコロジー研究と共同体研究に取り組んでいたらしい。この研究がマルクスの思想にどんな影響をもたらしたかは省くが、マルクスは人知れず、新しい思想の高みに到達していた。それが「脱成長コミュニズム」である。

脱成長、、、コミュニズム、、、どちらも成長やめろ、農村に帰れ、儲けるな、のように、言ってることは分かるけどそんなこと誰もしないでしょ!って言葉ですが、この本では特に「使用価値経済への転換」、「労働時間の短縮」、「画一的な分業の廃止」、「生産過程の民主化」、「エッセンシャル・ワークの重視」を柱として現実的なものとして論じている。

脱成長はただただ経済成長を止めろとかそのような議論ではない。そしてコミュニズムもただ農村のコミュニティって大事だよね、なんてものではない。資本主義という希少性を強制的に生み出しむしろ欠乏を促進させることで、ある一部が富を創出するシステムの問題点と、相反するコミュニズムにおける「コモン」の概念。これはこの本の中心的主張なので、詳しくはぜひ本を読んでみてください。

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私としてはSDGsも今まで見落とされていた環境評価の指標を作りあげた点や、環境問題を可視化するものとして有効なものだと思っているが、このような批判的視点でSDGsをみる良い機会になった。またマルクスに関しては浅学であまり知らなくて、社会主義的思想でしょ、っていう印象しかありません。なので今回の議論をマルクスに紐付けた点は特に何も感じなかったのですが、資本主義と環境の関係とその原理、そしてそれらの相容れない性質とは?環境変動は止められる?現代の社会のシステムは幸せを生み出しているのか?ではどんなシステムがいいのか? そのような漠然とした疑問に対して一つの回答が得られたような気もします(正解かは分かりませんが)。





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