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なぜバーミンガム大学MPHなのか?

今回はタイトル通りの記事を書きます。
最近はまだマイノリティではあるものの公衆衛生大学院に進学する医師は増えてきていますが、
なぜイギリス? 特に、なぜバーミンガム?
というのは比較的めずらしい選択なので、
大型奨学金をとって、IELTS7.0とか7.5で、ハーバードやロンドンいって…
という王道じゃない選択肢を説明することで、誰かの参考になるとうれしいです。

なぜ公衆衛生大学院か。

以前にも別の記事で書いたように、昨年度はあえて公衆衛生ではなく、公共政策を勉強しました。
政策をあえて選択した理由は以下の通りです。
 
健康のためになにかをしようと思ってもそれは
・政治力学や制度、社会の動向によって大きく影響されるから、「医学、公衆衛生学的に理想」を掲げても、それが社会には実践できないこと
・健康という側面からだけみるのでは、ひとが幸福に(幸福が社会の価値観として十分かはさておき…)生きていくための社会には片手落ちであること
・例えば「健康の社会的決定要因」にアプローチするとしても、そのためには経済や労働政策、教育政策などにアプローチしないといけないこと そのような他の学問分野の理解がなければ、医療側からの一方的な情報発信(あえて言えば無責任な)となること
・社会保障費も、高齢化も、医療や健康はさまざまな意味で日本の大きな要素(課題)であること
それで、あえて公衆衛生ではなく公共政策を今年は選んでいました。
 
ですが、大学院で勉強する中で、やっぱりpublic healthも勉強しないと、と思うようになりました。
理由として、当たり前といえば当たり前なのですが、公共政策大学院の学生として医師の立場を離れていても、自治体からきている同級生と医療や健康に関して発言をするときには、どうしても「医師が発言している」という風にみられるし、その責任から逃れられないと思ったからです。
さらに、公衆衛生public healthといっても、近年は、健康という結果だけではなく、個人が安心して生活できることや、幸福であることや、満足して死ねること、なども徐々にoutcomeとして設定されるようになってきています。
 
医学部、臨床医、そして公共政策という間を橋渡しするためには、Public Healthがやはり適切であるように思いました。

なにを勉強したいか。

昨年の公共政策については、公共政策学について広く知り共通言語を得ることを第一に目的にしていました。(このような広く共通言語を知り、専門分野をそれぞれのぞき見して、どのようなツールや深みが存在しているか知るのが社会人大学院 修士課程の良いところだと思います)
 
今回の公衆衛生では、目的は以下です。
①まずPublic Health全般の共通言語を得る
②自分の興味のある分野を学ぶこと。つまり、健康x公共政策という越境分野。さらに、その中で住民/個人というプレイヤーがどのように動くか。個人のナラティブではどのようにそれを受け止め、逆に死生観や文化的なものがどのように健康x政策に影響するのか。
③それを解釈/研究するための手法として、疫学、統計、データサイエンスなど量的研究手法に加えて、質的研究を学ぶこと。
 
この3点を目的に考えました。

海外か、国内か。

国内を選ぶメリットはたくさんあります。
まず学問を学んだうえで実践の場を「日本」に置きたいとすれば、日本で勉強するメリットが特に多くなります。日本の制度や実情を知ることができる、日本での同志との縦横のつながりができる、などです。
さらに、仮にfull timeの学生だとしても、日本でバイトなど仕事ができることは予算的にもメリットです。当然渡航費用や引越し費用なども浮きます。
さらに、国立大学のMPHを選択すれば、名の知れた海外大学院の多くよりも学費は安くなります。
 
一方で、実際には今回、僕は海外を選びました。理由としては
・昨年度、「日本の公共政策大学院」で学んだ。そのため、公衆衛生ではありませんが、行政や政治、医療政策に関係した分野については日本の仕組みはある程度は理解できていると考えました。
・さらに、上で述べた学びたい内容:つまり、健康と公共政策や社会科学/人文学と越境するような分野は日本の公衆衛生大学院ではあまり十分にカバーされていない印象です。日本のMPHでは疫学、生物統計学、臨床研究に焦点をあてているところが多く、これらの分野を学びたければ、海外に場を求めたほうがよいだろうと考えました。
・もっとミーハーな話をすれば、もちろん憧れもあります。医師2年目の夏に「公衆衛生」という分野が面白い分野だと気がついてから、やはり「公衆衛生の本場」に行って勉強したいという漠然とした気持ちはありました。

なぜいまか?

これはかなり個人的な話が影響します。
昨年度フルタイムで公共政策大学院にいっていたのは大きいです。公共政策大学院にいったことで、準備するための十分な時間が確保でき、さらに学問への意欲が高まりました。
また各専門医取得や結婚など、個人的なライフイベントやライフプランとのタイミングの関係もあります。
このあたりのタイミングや年齢は、留学の予算や都市選びに効いてきます。

どの国か?どこの大学か?

考えるときのファクターは
・学費と期間
・英語や入学基準のカットオフ
・内容(強味や講義科目、大学ウェブサイトの研究紹介など)
・国や地域の治安や住みやすさ
・参考までに:大学ランキング
を考慮しました。 

公衆衛生大学院のトップスクールはイギリス、アメリカに集中しています。

アメリカのハーバードやジョンスホプキンスなどトップスクールに限らず、よい大学がたくさんあると思い、もちろんアメリカとしての国の特徴は関係なく、国際的に優れた大学院はたくさんあると思います。ただここは、多分に僕の偏見も混ざりますが(ごめんなさい!)

・アメリカの医療政策や経済は、実践者向けというよりアカデミズムが強い印象
・さらに実践という意味でも、あまりに日本との制度や議論の前提が異なりすぎている
・アメリカは学費がイギリスの軽く倍程度(800-1000万/年)。さらに2年のコースもある。

・イギリス(やヨーロッパ)はアメリカよりは学費が安い 250-500万/年。多くが1年間
・イギリス(やヨーロッパ)は、旧宗主国として環境や前提の異なる各国でも実践できるような学問として公衆衛生大学院がある。当然日本にも適応できるものとなっている(はず)
・アメリカよりは、相当日本と制度や社会思想的な前提も近い。(あくまでアメリカと比較して)
・銃規制などアメリカよりも治安がよさそう(家族帯同なので) 

このような比較をして、アメリカはあまりそれ以上調べず、イギリス+ヨーロッパに絞りました。 

ヨーロッパ大陸は、日本から留学する人は少ないですが、ベルギー、オランダ、ドイツなどで英語で開講しているMPHがあります。
特にベルギーは熱帯医学、オランダは医療政策/行政に力を入れたコースを展開しており、これらの国も旧宗主国として世界各国から学生をとっています。
さらにEU圏内の大学は学費が安いです。(200-250万/年)
ドイツのコースは正確には公衆衛生ではなく、「国際保健」の学位ですが、オランダは「医療人類学」の学位があったり、公衆衛生や健康に限らない学際的な分野に強い印象です。

イギリス国内については、英語の入学基準(あとからみたらもう少し欲を出してもよかったかもしれない…)に加え、
学費(350-500万程度の幅がある)、生活費(ロンドンは自費留学にはちょっと厳しい…)という割合ハードな要素と、
選択科目の内容、研究内容、各都市の訛りや住みやすさを考慮しました。
英語については別記事で書いた通りですが、さらに推薦状などを書いて頂く枚数などを考慮して、以下の6校に絞りました。

ヨーク大学 University of York、グラスゴー大学 University of Glasgow, シェフィールド大学 University of Sheffield、バーミンガム大学 University of Birmingham、Institute of Tropical Medicine Antwerp(アントワープ ベルギー)、KIT Royal Tropical Institute(オランダ王立熱帯医学研究所、アムステルダム)
(ちなみにこのなかで一番学費が安かったのがベルギー、イギリス内ならヨーク大、大学ランキングが一番高いのがグラスゴー大学です)

幸いにも、最終的にはすべてのところから合格/Offerを受け取ることができましたが、ここから悩んだのが、どこに進学するか、です。
グラスゴー、シェフィールド、バーミンガムで悩みました。グラスゴーは魅力的でした。大学の建物もすごくよいです。興味のあるSDHに特化した授業があるのもここだけでした。
しかし、研究色が強いのか、グラスゴーは選択科目をかなり絞らないといけず、「公衆衛生一般も広く浅く学びたい」という目的からは少し外れてしまいました。
さらに、あまり英語に慣れていない家族を連れていくとなると、地域の「訛り」が気になります。この点、グラスゴーは「イギリスでもっとも訛りがきつい」とも言われていて、その点が引っかかってしまいました。

バーミンガムとシェフィールドが最後まで残りました。
選択科目などについては正直ほとんど同じだったので、決め手は、研究分野(サイト)、ほかのコースの存在、過去の日本人学生情報の有無です。
研究内容として、社会学や高齢者のwell beingなどを重視している(ようにみえる)のがバーミンガムでした。
さらにバーミンガム大にはMPHコースの亜型があり、僕が参加している「MPH general」のほかに、「MPH 医療技術評価HTA」「MPH グローバルヘルス」「医療政策と医療経済修士」「臨床研究修士」があります。このような分類があることは、それだけのプロフェッショナルな指導者がいて、細分化するだけの熱量があることを示唆すると考えました。

最後にバーミンガム大MPHへの過去の日本人留学生の情報が、むしろ「ありません」でした。もちろんいないわけではないのでしょうが、検索しても出てきません。シェフィールドは検索すると出てきます。
このように考えると、むしろパイオニア的な意味で面白いかな、と思いました。
家族という観点で考えると、バーミンガムは訛りはありますが、マシですし、街としてもイギリスで2位3位の規模でたいていのものはそろっています。無印良品もあります。ロンドンまでも2時間、国際空港近接。このような生活面も総合して、バーミンガム大学を選択しました。(と書いていたら、バーミンガム市財政破綻しました…どうなるか…)

まとめ

・日本で実践するなら日本の大学院も選択肢
・今回は、社会科学や人文学との越境的な分野も学びたいので海外/ヨーロッパ/イギリスにした
・英語力や入学基準、学費は現実的な基準になる
・ベルギーやオランダも選択肢になりうる
・最終的には、研究内容、選択科目、公衆衛生関連コースの全体デザイン、街の住みやすさで決定した

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