コミュニティパワー:地域住民による再生可能エネルギー

福島第一原子力発電所事故によって、原子力発電を含めた日本のエネルギー政策は大きく見直された。これを受けて再生可能エネルギー普及を目的に、再生可能エネルギー促進法によって2012年から固定買取価格制度が始まり、再生可能エネルギーは2018年で18%まで拡大している。また電力システム改革もこれを後押しして進められた。
さらに2020年、菅内閣は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを発表した。この中では再生可能エネルギーは2050年時点で50-60%の比率を目指すとされている。しかし静岡県熱海市での土砂災害をはじめ、メガソーラーや山間部に設置された風力発電など再生可能エネルギーの拡大に対して厳しい目が注がれているようになってきている。脱炭素かつ原子力発電ではない再生可能エネルギー事業は重要な電力源だが、地域住民との紛争が現在課題となっている。
このような再生可能エネルギー事業の課題へのひとつの解決策として、コミュニティパワーという取り組みがある。再生可能エネルギー発電事業を地域自治の一貫として行う活動である。まだ日本では環境が整っていないが、すでに複数のコミュニティパワーが実施されている。コミュニティパワーには、電力源として再生可能エネルギーの割合を高めるのみならず、地域経済や発電事業にともなう地域住民との合意形成過程などいくつかの利点が存在する。日本で、コミュニティパワーが普及していくためにはどのような環境整備が必要だろうか。

1 コミュニティパワーとはなにか
 世界風力発電協会が「コミュニティパワー三原則」を提唱している。これを参考に環境省は、少なくとも三原則のうち二つを満たすものをコミュニティパワーの要件としている。三原則の内容は ①地域の理会社がプロジェクトの大半もしくは全てを所有している ②プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によって施行される ③社会的・経済的便益の多数もしくは全ては地域に分配される、としている。
 コミュニティパワーは、デンマーク、ドイツ、カナダなどにおいて、主に風量発電事業において普及している。景観や野鳥、騒音の問題などで地域住民と問題を起こすような巨大な建造物であり、中規模の設備投資が必要となる風力発電を、地域住民が管理したことが発祥である。
 日本においても2001年に北海道浜頓別町で開始された市民出資の風力発電がコミュニティパワーの初めての事例となり、その後長野県飯田市、岡山県備前市など拡大をみせている。事業内容として風力、バイオマス、太陽光、小水力などを活用した多様な活動が行われている。また市民出資の事業もあれば、地域外からの出資も募った事例、自治体による支援が行われている地域もある。

2 コミュニティパワーの利点
 コミュニティパワーの利点は5つある。すなわち①再生可能エネルギー ②防災 ③電力事業開発に伴う摩擦の減少 ④地域経済 ⑤エネルギーの分権化 である。
 コミュニティパワーでは、電力源として再生可能エネルギーが選択される。水力、風力、太陽光やバイオマスなど地域資源を活用できる点が理由の一つだ。また設備にかかるコストももう一つの理由だ。原子力発電所や火力発電所は大規模資本を必要とするが、風力発電や太陽光発電など比較的小規模~中規模資本で実現可能である。
 地域の防災力を高めることもできる。宮城県東松島市では、太陽光発電と蓄電池の組み合わせで停電時に3日分の電力供給が可能であり、2016年の熊本地震の際にも同様の設備が機能している。またコミュニティパワーが各地域に展開され小規模分散型となることとあわせて、現在の日本の電力体制の弱点である電力ネットワーク強化が行われれば、日本全体としてのエネルギー安全保障にも寄与する。
 また冒頭に述べたように、昨今メガソーラー事業を中心に再生可能エネルギー事業へ厳しい目が注がれている。風力発電でも騒音など周辺住民との摩擦が存在する。Not In My Backyard(NIMBY)という側面はいずれの発電事業においてもいえることで再生可能エネルギー事業においても考慮が必要である。メガソーラー事業などへの規制を強化する動きもあるが、規制強化は再生可能エネルギー事業のコストを増加させ、普及を妨げる。その点、コミュニティパワーは、原子力発電や火力発電よりも受益と負担の分担が明確で、こういった地域住民との摩擦も自治という過程で乗り越えることができる。
 さらにコミュニティパワーでは、従来型の発電事業では域外、国外へ流出していた資本を地域内経済に還流することができる。火力発電など燃料を海外から輸入すれば、燃料費は海外へ流出する。また原子力発電所や火力発電所が所在する自治体においても、その運営会社は都市圏に所在し、発電所のあげる利益や住民の電気料金も地域から都市圏へ流出している。地域内産業としてエネルギー事業を行えば、事業利益は地域経済へ貢献することとなる。
 最後に各地域でコミュニティパワーが普及すれば、発電事業者の多様化、小規模分散化が進む。これは電力システム改革の方針に合致するものである。

3 コミュニティパワー普及における課題
コミュニティパワーはすでに日本でも行われているが、普及に関して複数の課題が挙げられている。市民主導で進めていくコミュニティパワーにおいて、まず資金面が大きな壁になる。そのため、固定価格買取制度の先行きの見通しの明るさや自治体による保証、国策としての再生可能エネルギー事業支援などが必要とされている。火力発電等と比較して小規模とはいえ、地域内で大きな事業となるエネルギー事業では様々な利害が発生する。そのため、地域での研修や利害調整が必要だが、この際にも自治体の支援が有効である。
また再生可能エネルギー事業に取り組んでいる自治体においても、送電線網への接続困難、利権調整、農地転用などの規制など制度面の課題があげられている。同時に、資金調達困難、固定価格買取制度の見通し不明など資金面での課題や、人材や事業者の不足が課題としてあげられている。

 これまでみてきたように、コミュニティパワーを普及させることによって、再生可能エネルギーの割合を増やし、昨今の再生可能エネルギー事業に関係した住民紛争を減らすことができる。そのためには、コミュニティパワーという取り組みの市井レベルの認知普及のほか、自治体による制度面、資金面での支援や、国による市民および自治体への制度面での支援が必要である。

参考文献
山下英俊ほか(2016).日本の地方自治体における再生可能エネルギーに対する取り組みの現状と課題.サステナビリティ研究,6,p.57-70
西城戸誠(2014).「コミュニティ・パワー」としての市民出資型再生可能エネルギー事業の成果と課題.人間環境論集.15(1),p.1-67
経済産業省資源エネルギー庁.第6次エネルギー基本計画 2022年5月29日閲覧
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
環境エネルギー政策研究所(2014)地域の資源を活かす再生可能エネルギー事業,金融財政事情研究会
環境エネルギー政策研究所(2013)自然エネルギー白書2013,七つ森書館


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