東大受験の思い出 3

僕の人生を支え、そして破壊してきたのは強迫観念だ。自分の人生はこうでなくてはいけないという思い込み、圧倒的な成功でなければすべて敗北としか捉えることのできない思考。強迫観念が自分の人生を進行させ、そして破壊してきた。

初めての東大模試でD判定をとったとき、自分は絶対に東大に合格しなければいけないという強迫観念に囚われた。これまで大学受験のことを何も考えていなかった自分が、自分は東大から選ばれない可能性がある人間だということを思い知らされた途端、何かのスイッチが入った。周到に準備を重ねてきた同級生たちはA判定やB判定をとっている。自分は置いていかれている。とにかく追いつかなくてはいけない。

高校3年生からは塾に通い始めた。高校受験は中3から始めてもなんとかなったが、大学受験はそう甘くないだろう、どうして自分はいつも世間知らずで、周りに置いていかれるのか。そんなことを思っていた。

中学生のときに初めて塾に入ることに緊張したように、高校生になった自分も、塾に初めて入るときはかなり緊張した。教室の中にはずっと前から受験対策を始めている同級生たちがいる。その中で劣等生の自分。居心地が悪かった。

最初は授業を受けるタイミングが合わなかったので、塾に併設されている自習室で勉強をするように勧められた。100人くらいは入るであろう、大きな自習室だ。

しかし、自習室のドアを開けた瞬間、無理だと思った。大勢の人間がさしたる音もたてずに黙々と勉強を進めている。その空間がたまらなく不快だった。僕はある種の中二病なようなものを患っていて、他人が努力をしているのを眺めるのがとても苦手だった。前向きに目標に向かって努力をする人間を見た瞬間、すぐに背を向けてしまう癖があった。自習室にはそのような人間が何十人もひしめいている。

僕は自習室のドアを閉めて、「今日はもう帰ります」と告げて帰宅した。受付の人は、自習室のドアを開けた瞬間にドアを閉めて帰っていく僕を見て怪訝な顔つきをしていた。

明日を生きるモチベーション