薬物の売人と客

前回の記事はこちら🐤注意書きもあるので読んでね

初めて大麻を見た日|都築 (note.com)

なんやかんや友人で

 なんやかんやNとの関係は続いていた。この前体験した恐怖は肚の中にありつつもそれ以上に湧き上がる好奇心に勝てず、工場で仕事を終えた後は一緒に喫煙所に行き上司の愚痴を言い合っては遊びに出かけていた。
 ある日、仕事終わりにNとラーメン屋に行った。なぜかチャーハンのみを頼んだ彼は、チャーハンを食べて開口一番「この店ラーメンよりチャーハンの方がうまいよなぁ!」と割とでかい声で話しかけてきた。傍から見たらまぁ厄介な客だが、彼の言葉は100%本心で悪意が無いから咎められずにいた。彼のバカな感じの純真さは、何でも斜に構える自分にはない輝きに見えた。
注文したラーメンと食べ比べたら実際にチャーハンの方が美味かった。ラーメン屋としてどうなんだこれ。
 食後、一緒に近くのコンビニでデザートを漁っていたらNのスマホに着信。「派遣元?」と聞くとNはニッと笑って「逆だよ」と一言残し車内へ戻り通話を始める。
Nの言葉の意味は分からなかったが、適当に買って自分も車へ向かう。両手が開いていたので、通話が終わったと思い車内に入ったらハンズフリーで話を続けていた。音を出さない様に出ようとしたがNは目配せでここに居るよう伝えてきた。「あ~最近入ったんでありますよ」「この前のどうでした?」時折、聞きなれない単語を交えながら上機嫌な様子で、目の前に相手がいる訳でもないのに身振り手振りを交えて通話を続ける。
ふと視界に通話画面が目に、、、ラインでも電話でもない、知らないアプリの通話画面。「じゃ、3の場所で」と通話を終えたNは「残業開始だぁ」とカッコつけ、爆音でいつものHIPHOPを流しノリノリで発進した。

 そして、何となく察する。

“あぁ、なんか面白いモノが見れるんだろうな、そして後悔するんだろうな”半ば破滅願望に近い感情が体を巡った。食事の満足感は消え、デザートのクーリッシュは食べごろだったか味がしなかった。不快感しかなかったがそれ以上に期待感が上回っていた。

客と売人と傍観者

 10分ほど走り、到着したのは何ともないドラックストアの駐車場の隅っこ。「…さっきの通話テレグラムってやつ?」好奇心に勝てずに聞いた。「そんな感じのやつよ~ちょっと待っててな~」鼻歌交じりで答えるとNはフロントガラスの内装(Aピラー)を剥がし、ジップロックに小分けで入ったソレを取り出す。
そしてグローブボックスから計りを出してソレの重さを丁寧に計っていく。「大体多く入ってるんだよなぁ~、余った分はチョットしたボーナスよ」Nは端数分のソレをピンセットで取り出し、煙草にねじ込んで吸い始めた。0.0なんちゃらグラムの量だと思うが、それでも独特のキツイ臭いがした。
 ・・・ふと思ったが、ソレを買う人ってどんな人なのだろう。自分の経験上、使用しているのを見た事があるのはNの一人だけだが、彼は正直に言うと、見た目からやっててもまぁ驚かない。ラップ好きやラッパーに対する偏見なのは百も承知だが、実際捕まった有名人はいる。
アレコレ考えている自分をよそに、Nは上機嫌だ。今から法に触れる人間とは思えないほど満足げな表情でニヤニヤしていた。(キマッてるだけかもしれないが。)
しばらくしてレクサスのデカいやつが近くに停まった。そこから出てきたのは30代半ば位のスラっとした女性。恰好はハイブランドではないにしても小奇麗で、嫌みのない上品な雰囲気を醸し出している。
こちらを一瞥し、自分が助手席に座っていることに気が付くと、彼女は特に気にするでもなく後部座席に無言で入ってきた。互い挨拶もなくNは無言で計りの表示を見せながらソレを後ろに送り、入れ違うように万札が手渡された。取引は1分もかからず、彼女は車に戻り消えていた。
 正直、意外だったが面白くも感じた。他人のアレコレなんて分かる訳がないが、高級車乗り回す上品マダムがソレをキメてるのを想像すると、テレビのインタビューで「まさかあの人が…」と大げさに驚く住民の心境のそれが理解できた気がした。
「じゃ、駐車場まで送るわ」Nの声に現実に戻される。キマッてる人間の運転って大丈夫なのか?という疑問はあったが、どうやらいつもの事らしく何の問題もなしに到着し、その日は解散となった。

ヤーバーイーツ

 帰りの道中、稼ぎについて聞くと快く彼は答えた。どうやら量や内容によるが、1件の配達で2千円ほどの収入になるらしい。こういった悪いお仕事は往々にして高収入のイメージだが、どうやらそれはまとめて持ち込む人間の事で、末端の販売員は歩合制で隙間時間にこなすのが鉄板らしい。リスクに対して何とも割に合わない仕事に思えるが、常連の顧客がつけばそこそこの副業だという。さっきのマダムも常連の一人だそうだ。
彼の軽口具合を見るに、本当に配達のバイト感覚で捕まることは微塵も考えてない様子。まぁ、第一にそんな事考えられる人間はこんなことしないだろう。
 好奇心ついでに出所をさりげなく聞いたが、そこは流石に琴線に触れるようで無視された。まだまだ聞きたいことはあったが、変に深入り(既に手遅れかもしれない)して戻れなくなる事を想像したら、さすがの好奇心もすっかり身を潜めてしまった。
 家に帰り一通り後悔している自分が居ながらも、今日の出来事が楽しいと感じてしまっているのは事実だった。こうした身を滅ぼしかねない現場に出くわす面白さは、決して経験する必要がないもので、でもそれを求めてしまう自分、こうして記事を書く自分に酔っている証左なのだろう。Nも僕も人間としてヤバいのは疑いようのない事実で…。

でも、もう少しだけならまだ大丈夫か

そう自分に言い聞かせ、好奇心に負け、まだまだNとの関係は続くのだった。

ソレの流れ(後日談)

 後日、ソレの出所について、そっち方面の経験がある同じ工場の半グレが色々と教えてくれた。どうやら県内でも有名な反社が胴元じゃないかと言う。
流れとしては、すっごく悪い人→その人から信頼されて大量仕入れする人→地区ごとの補給所→地域ごとの補給所→Nとかの末端販売人→客
といった流れで、Nは地域ごとの補給所で金銭や物品のやり取りをしているらしい。信憑性のない知識だが、何かの創作の役には立つのかもしれない。

 

最後に

 次回はNの営業と私生活について書く予定です。投稿日時は相分からず遅筆なので未定です🐤

 この記事は違法薬物の使用を推奨するものではありません。また、違法薬物の使用は法律により禁止されており、所持・譲渡・譲受の場合、譲受には5年以下の懲役が科せられます。また、営利目的であれば、7年以下の懲役または情状により7年以下の懲役および200万円以下の罰金が科せられることもあります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?