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第5章 03 少数派がまちを変える(最終回)


ファンがファンを増やす時代

 さて、少数派がまちを変えるという話ですが、多数派の意見を聞いても(同じく、多数派に一気に影響を及ぼしても)上手く行かない可能性があるのではないかという話をもう1つしてみたいと思います。

 サルトでは、20年来、多数派の意見を聞いたら恐らく出来ないだろう取り組みを現場で実行し続けて、複数の地域で成果を上げてきました。だから、なんで都市計画やまちづくりって、多くの人の意見を聞くんだろう、それは理論的にも現場感覚的にも間違ってない?というのが本書で伝えたいことです。

 現場では分かりきったことなのに、なぜか公になるとそうはいかない。だから無駄なリソース(税金)が投入されつづける。それはおかしくない?ってのが出発点。税金が投入されていなくても、まちづくりという言葉を使って地域の限られた民間リソースが集結して疲弊していく。

 でもマスマーケティングの分野では、一気に多くの人に伝わるような、例えばテレビのような媒体を手段として物事を普及させていっているような気がしていました。

 実際に、一昔前の広告代理店的な(世間でバズることを狙っているような、まちや人を小馬鹿にしているような、消耗品として扱っているような)発想でまちづくりと主張する輩たち。

 身銭で勝手にするのはいいんだけど。地元にいる多くの人の善意で成り立っているあたりがなんとも胡散臭い。地域の人はそのために協力して、期待して、結局裏切られる。善意の搾取。それらは第二章で書いた通りです。

 みんなを巻き込んで、みんなが失望する。

 そんな中、マスマーケティングの世界にいた佐藤尚之の著書『ファンベース』が、まさにサルトが地域や都市という分野でしてきたことを、そのまま書籍にしたような内容でした。その内容に共感しすぎて、一時期は色んな都市で『ファンベース』普及活動をしていたくらい。

 彼が書いていることは至極シンプルで、これまでのようにマス狙いのマーケティングも時と場合によっては有効だけど、ファンを大切にしたコミュニケーションを第一義として大切にしていかないと、これからの時代上手く行かないよという話です。

 なぜなら現在は情報過酷化社会であり、世界にある砂粒の数よりも情報が溢れかえっていて、誰のための情報であるのかが分からないような発信は床に落ちている砂粒同様無視されるというのです。

 またファンというのは多数ではなく少数であるということにも触れています。例としてカゴメのトマトジュースが取り上げられています。

 トマトジュースが好きな人は、トマトジュースを飲む人全体の中で2割を切るらしいのです。しかし彼らトマトジュースのコアなファンが購入する生涯のトマトジュースは売上全体の9割近くになるというのです。

 ファンは売上の大半にも貢献する。また熱狂的なファンは、その良さをジブンゴトとして解説し、次のファンを増やし続けてくれると言います。つまりファンがファンを増やすわけです。

 少数から多数に広がっていくという発想は、テレビによるマスへの働きかけ全盛であったマーケティングの世界でもじわりじわりと勢力を増しているようです。

ゴールはみんなのために

 都市計画やまちづくりは、現状である現在地から、多くの人が共感する未来のゴールに向けた階段のようなものです。

 これまでのまちづくりでは、現在地から出発する際に、多くの人の意見が重要でした。多くの人の意見をできるだけ聞いて分析し、要求される質を満たすための計画づくりをして実行するというパターンです。

 現在地において、みんなの意見を重視するスタイル。

 経済が上向きで人口増加時代には良かったけれど、人口が減少し成熟社会となった日本においては、みんなの意見を重視するスタイルでは現在地で既に身動きが取れなくなり、現在地からゴールに向けた階段を一歩も登れずに無駄なリソースが投入されつづけているように感じます。

 でも本来の目的は、未来のゴールにおいて、多くの人が共感する社会をつくることだと思うんです。

 ということは、現在地で多くの人の意見を聞かずとも、ゴールにおいてみんなの共感を得られることができれば良いということだと思います。

 まずは共感する少数から始まって、小さく動き出し、少しでも前に進む、又は何かを変化させていく方が、身動きが取れず一歩も進まないのにリソースだけが投入され続けるよりはよっぽど良いわけです。

 少しずつ共感の輪を増やしながら、多くの人が共感する素敵な未来をめざしていく。

 なので、これからの時代においては、プロセスに多数派の複雑で多様な意見を持ち込まずに、初期段階では共感、共鳴する少数が動き出すパターンが主流になっていくと思います。

 プロセスにみんなを持ち込まないスタイルです。

 ではどうやってみんなの共感を得ていくのかといえば、少しずつ周囲を巻き込みつつ階段を登っていく必要があります。

 そのためには、自分たちがどうしていきたいのかということを分かりやすく表現したシンプルな戦略を設定することをおすすめしています。

 戦略は、現在地からゴールへの登り方と言えます。

 戦略という漢字はその意味をとても分かりやすく表現していて、戦うことを略する、ということで、戦わずして勝つための羅針盤なのです。

 なぜ戦わずして勝つという考え方が必要なのか。

 それはリソースが限られているからです。リソースが限られている中で、やたらめったら戦っても勝ち目は無いわけです。

 リソースを集中投下する判断基準が存在すれば、リソースの無駄遣いを避け、効率的にゴールに向かって歩むことができます。

 そして、戦略の中身はとてもシンプルです。

 誰に・何を・どうやってを決めるだけです。「誰に」では、どんな人に向けたものなのかをハッキリさせます。ここが一番重要です。ここでぼんやりとしたみんなではなく、かなり絞り込んで設定することが大切で、つまり「未来のお客さん」を決めます。

 そして「何を」では、「未来のお客さん」が共感するモノを丁寧に伝えたり扱ったりして、「どうやって」では、「未来のお客さん」が自分たちのための取り組みであると感じてもらえる方法を採用する。

 結果として、少数である「未来のお客さん」が大賛成するものになりますが、その裏で「多数派」は面白くないわけです。

 少数だけが優遇されているように思うから。

 でも、その少数の動きに共感する人たちが現れてきます。これが第二章で示した普及のS字理論における「アーリーアダプター」です。そして、「アーリーアダプター」が現れることで、次の多数派につながっていく。(その間にキャズムが存在するというジェフリー・ムーアのお話もあるが、今は無視)

 その結果、最終的に多くのみんなが共感する未来をつくる。

 プロセスに「みんな」を持ち込まず、ゴールは「みんな」のためという手法がこれからの都市計画には求められていると考えています。

 さて、これまで色々とロジカルな話を進めてましたが、次回からはサルトが実際に取り組んできた内容に進んでいきます。

この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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