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第7章 02 ご近所を素敵に変えよう


バイローカルの日

 さて私たちが年1回開催している青空市「バイローカルの日」は、見た目は普通のマーケットイベントです。現在は年1回の「NIGHT Buylocal」も開催していますが、それはまた今度。

 さて、バイローカルの日は、公園の青空の下、タープテントを立てて出店者が並び、お客さんが買い物や食事を楽しむ催し。つまり取り組んでいる事は、特別で奇をてらった内容ではなく、至ってシンプルです。

2013年 第1回目の「バイローカルの日」の様子

 違うのは目的と仕掛け。

 お客さんにとっては楽しみの空間ですが、イベントに訪れることでご近所のよき商いと出会い、日常生活の中でご近所のお店を利用するようになり、「よき商いを守り育てる」ことにつながる。

 結果として、この好循環がご近所の未来を素敵に変えるわけです。

 「バイローカルの日」当日にしていることの1つに「どこから来ましたかマップ」があります。

来場者のほとんどはご近所さん(2020年開催時の「どこから来たのマップ」)

 開催地を中心として半径1km程度のマップを畳サイズの大きさで印刷し、当日来場された方が自分の住まいのある場所にシールを貼れるようにするというものです。

 このイベントに来られる大半の方は地元から来ているということを地元店舗である出店者にも、来場される方にも認知してもらうための仕掛けです。

 定期マーケットに関する第6章でも書きましたが、どんな人が来ているのかというのはとても大切です。

 私たちが取り組むバイローカルは、地元のよき商いを地元に住む方に知って頂くことから始まります。
 そして、ほぼ地元からの集客だけで、十分に多くの素敵な方が来場して、雰囲気の良い空間が作れたら、きっと地元のことを見直す、又は期待していくきっかけになるはずです。

 こんなに素敵な人たちがこのまちに住んでいるんだ、こんなにこだわった素晴らしい店舗が自分たちのまちにあるんだと認知してもらうきっかけになるわけです。

 何度も書きますが、このイベントを始めた2013年当時、私たちのまちに期待している人はきっと少数派でした。なぜなら、地域には空き店舗が増え続け、よき商いでも商売が難しい状況だったからです。

 つまり、多くの人は、恐らく天王寺やなんば、梅田が楽しむ場所で、自分たちの住むまちは住宅がある場所という認識だったんだと思います。地元には、特に何も無いし、素敵なことなんて特にないという感覚です。

 しかし有り難いことに現在は、開催日が土日になると余りに多くの方が来場してしまうことから、2021年からは平日開催に変更するほどにマーケットが成長しました。

 マーケットの雰囲気を決めるのはお客さんです。余りに行列ができたり、お客さんが殺到するイベントは、私たちがめざしたいまちの雰囲気では無いので、あえて平日に開催することで、来場者を限定しつつ、平日にまちで暮らすことの方が素敵で楽しくて未来に近いことを示したいとも思っています。

 通常平日は、ご近所から都心部へ通勤通学している人が多いのですが、ジェイン・ジェイコブスを引用するまでもなく、日中でもまちの中で過ごしている大人を増やすことが、まちにより一層多様性を生み、エリアの価値を高めると信じているからこそ、平日開催の重要性を感じています。

 しかし実は、2021年も雨の中開催、2022年は雨で中止。それにも関わらず2021年開催当日は、雨の中でもかなりの来場者があり、出店者や来場者からはバイローカルの知名度の高さを改めて認知して頂けることになりました。

 中には有給とって来ました!というお客さんまで。とても嬉しかったことを覚えています。

 2022年も雨でしたが、各店舗がそれぞれの店舗前や、数店舗が集まってミニバイローカルが実施される等、いろんな波及効果を生んだのもこれまでの取り組みの成果だったと有り難く感じました。

 2023年には「NIGHT Buylocal」を実施。2024年は「バイローカルの日」を5月に、「NIGHT Buylocal」を7月に開催しました。


365日バイローカルマップ

 イベント当日に配布している紙媒体があります。これまで「バイローカルの日」に参加してくれた店舗を掲載した「365日バイローカルマップ」です。イベント当日だけではなく、365日バイローカルライフを楽しんでもらいたいという意図からです。

 初回2013年は29店舗が参加してくれました。当時私たちはその29店舗を掲載したリーフレットを当日配布しました。それが現在私たちのキーワードになっている「アフターバイローカル」を生み出していったのです。

 「バイローカルの日」以降に、バイローカル参加店を巡るという行為、まさに「バイローカルライフ」を楽しんでくれるようになっていきました。最近はSNSもあり、このアフターバイロイ―カルの様子をアップしてくれる方が増えていきました。

 本当に有り難いことですし、嬉しい限りです。この取り組みも、どんなまちでも良くしている店舗が掲載されているマップであって、特別なことは何もありません。ただし、そこにはビジョンがちゃんとあるわけです。

  「よき商いを守り育てる」ことが、自分の暮らしを楽しくしていくという信念です。単なる集客イベントや賑やかしではなく、みんなが見たことはないけれど、こっちの方が確かに良いよねって思える未来の暮らしを提示することの大切さだと思います。

 マーケティングの中でよく言われる話があります。一番素晴らしい価値を提供する商品は、ありそうでなかったものだというものです。ご近所が素敵になることは、ありそうでなかった。しかし私たちのまちでは少しづつですが実現しつつあると実感しています。

 さて、2013年以降その後10年間の中で「バイローカルの日」への出店や私たちの取り組みに共感してくれた店舗の仲間は100を超え、2024年開催時のマップには126店舗が掲載されています。そしてなんと、126店舗のうち、2013年以降に私たちのまちに出店してくれた店舗は70店舗以上あるんです。

 つまり、2013年当時の私たちのまちの状況とは一転、現在は多くの店舗が出店してくれるエリアに変化していったのが、私たちが取り組んだバイローカルの成果の1つだと思っています。

昭和なまちの未来地図

 このまちで叶えたいシーンをイラスト化し、バイローカルとはどういうムーブメントなのか、ビーローカル・パートナーズにはどういう人がいるのかを紹介した媒体になっています。

クックブック

 このまちの料理人を紹介するレシピ本です。ントリオールに旅をした時に、まちのシェフを紹介する書籍に出会いまモした。早速地元で実践。バイローカルで知り合った料理人のイチオシメニューレシピを公開しています。

期待されるまち、選ばれるまちへ

 

私たちのまちで起こっている事を少し抽象化して考えてみたいと思います。まず、天王寺が大きく変化しました。それは天王寺エリアにおける面的な再開発だったわけですが、つまり「流通の変化」を起こすことになります。

 25,000平米、1,000店舗が増加するというインパクトある変化が自転車で約10分のところで起きたことで、身近にあるご近所の商業が一気に衰退傾向に向かいます。

 この「流通の変化」によって、生活者はますます影響を受けることになり「消費者行動の変化」につながります。

 天王寺にある「大きくて、新しくて、便利で簡単なものへ」の変化です。ショッピング・センターや商業施設で買い物をして過ごす方が、自分のまちで暮らすよりも楽しい。

 そうすると、自分が暮らすまちへの期待感が無くなっていきます(「住んでいるエリアに期待感無」)。単なる住宅があるエリアであって、楽しんだりワクワクしたりする場所ではないという認識への変化です。

 だからといって身近にあるご近所の商売が全て無くなる訳ではないのですが、よき商いであっても存続困難になっていくのは当然の結果となります(「よき商いが存続難へ」)。

 そのような状況になっていくと、もちろんですが新規でこのエリアで商売を始めたいという人は少なくなっていきます。既存店舗が閉店して空き店舗は増えるのに、この場所で商売をしたい人が現れない。

 つまり遊休不動産が活用されず、選ばれないまちになるということは「まちの競争力を低下」させます。

 実はこのプロセスは、結果として自分の資産価値を下落させるということにつながるのです。選ばれなくなる、つまり需要が減れば価値は下がります。仮に持ち家だったり土地を持っていたりするならば、自分たちのまちへの期待感が無くなれば無くなるほど、自分の資産価値が目減りしていくことにつながるわけです。

 全国の衰退傾向にあるまちのほとんどが、多かれ少なかれ上記のような「負のスパイラル」に陥っているといえます。

 そのような状況の中、バイローカルが起こしたムーブメントは、この「負のスパイラル」からの脱却です。

 何をしたかと言えば、至極単純で、「大きくて、新しくて、便利で簡単なもの」もいいけれど、「新旧あって、小さくて、手間をかける」という事も尊くて、そちらの方が未来の暮らしじゃないか?と気がついた私たちがシンプルに訴えただけです。

 天王寺にあるものは、どこにでもあるけれど、私たちのまちにあるものは、どこにもない、ここにしかないものなのです。もちろん、天王寺にあるチェーン店も使うけれど、それだけでは満足しない。

 自分らしい暮らしをしていくには、ご近所のよき商いを守り育てていく必要があるわけです。

 「バイローカルの日」に、マップを配布すると書きましたが、このようなエピソードがあります。

 たまたまイベントに参加した生まれも育ちもこのまちに住む30代の女性。手にとったマップに掲載されていた店舗を生まれてこの方一度も使ったことがない。普段は通勤でエリア外に通い、休日は大型商業施設に行く生活。自分のまちに目を向けたことは1回もなかったらしいのです。

 でも、このイベントに参加して、自分のまちにも良いお店があるじゃないか!と気がつく。そして、今まで自分が利用していた店舗よりも、値打ちのある商売をしている人たちが身近にいるということに驚きとともに感動。

 そして、マップに掲載している店舗をひとつひとつ巡り、今ではバイローカルライフを楽しんでいる。そうすると、自分のまちへの期待値が高まっていく。結構いいまちじゃないかと。友人にもオススメしていく。この女性は特別かもしれないけれど、そのような行動がエリアに起こり始めると、多くの人の行動の変化が「よき商いを守り育てる」ことにつながる。

 そして、その変化は商売をしている人にもしてない人にも伝わって、このまちで商売をすると住んでいる人に応援してもらえそうという雰囲気が醸成されていく。そうなれば、このまちで商売したい、商売を継続したいという人が増え、選ばれるまちになるから「まちの競争力」はアップする。

 選ばれるまちになるということは「まちの資産価値アップ」につながるから、「負のスパイラル」が「正のスパイラル」に変革していくわけです。

 2020年にPTAを通じてネットアンケートを実施しました。その結果、なんと9割近くの方が「バイローカルで暮らしの質が高まったり、街の魅力が増したと感じる」と回答してくれました。

 それもそのはず、私たちがバイローカルを始めた2013年から、上記にも書きましたが、なんと70店舗以上が私たちのまちに増えました。その70店舗はメンバーで互選した私たちオススメの店舗だけの数で、実際にはもっと多くの店舗がこのエリアに増加したことになります。

 当初私たちは5人のメンバーでした。その5人が現状に違和感を感じ始めたことが、地域の多くの人の意識を変化させ、まちへの期待値をアップさせたことで多くの遊休不動産が連鎖的に活用され、エリアの価値を向上させることにつながりました。

 例えばこの10年間で地価は45%以上上昇。これがいいことかどうか?という問題はありますが、確実に正のスパイラルが動き出しています。一方で天王寺駅周辺エリアの地価は20%以上下がっている状況、隣接する住吉区は横ばいです。

 私たちは最近、バイローカルムーブメントは、地域を火災から守る防災活動と同じだと言っています。自分たちのまちを守るのは生活者であるというシンプルな発想です。

 この運動は、どの地域でも可能で、とても簡単で、そしてご近所の未来の暮らしづくりだと信じています。

 まずリスクが少ない。まちの課題となる遊休不動産や公共空間活用といったちょっと手が出しにくい事では全くない。でも、エリアの価値を上げれば加速度的に遊休不動産は勝手に活用されていくし、公共空間を活用する人も出てくるわけです。

 税金なんて一銭も使ってません。
 ぜひみなさんの地域でも一緒に取り組みませんか。


この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・答えのない時代に答えを出すには
・まちの期待値を高める定期マーケット
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・よき商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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