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第6章 01 地域に新しいチャレンジを創出する


答えのない時代に答えを出すには

 前章では、現在地で多くの人のニーズを満たさなくても、ひとまず少数から動かしてみることが大切と書きました。

 多くの人を説得するのではなく、少数からはじめて試行錯誤を繰り返し、結果として多くの人を巻き込んでいく(巻き込んでいけなかったものは小さく失敗することが大切。巻き込んで大きく失敗するのは致命的)プロセスが、現在の都市計画やまちづくりには求められているからです。

 答えがない時代だからこそ、身銭を切って色んな試行錯誤をすることが重要なんだと思います。

 人口が激減する縮退の時代においては、みんなが下りのエスカレーターに乗っていると想定すると分かりやすいと思います。

 日本が成長していた時代は上りのエスカレーターですから、何をしても上手く行く時代。第4章で書いたウォータープランニング開発のように、時間をかけた調査・分析・計画がもし間違っていても深い傷を負わずに終わることが出来る時代です。エレベーターはコケても上がっていくので。

 そんな時代は、もっと言うと、失敗にも気づいてない、または成功していても、上りのエスカレーターでそう見えただけで、本当は実力で成功したのではないことも多かったんじゃないかと思ったりします。

 特にまちづくりの分野では、たくさんの歪みを地方で見聞するにつれ、色々と考えさせられます。

 しかし時代は下りのエスカレーター。
 多くの人が経験したことのない局面。

 まちの将来はどうあるべきなのか。まちの新しい顧客は誰なのか。答えはありません。そんな中で、いくら小さく試行錯誤をすることが大切と言っても、行き当たりばったりのまちづくりをしても答えが出てくるわけがないのです。

 答えが無い中でどうしたら良いのか。そのためには、これまで書いてきたように、多数派が地域に無関心であるという根源の問題を認識し、まちの新しい顧客は誰なのか、どうやって新しい市場創造をしていくのか、といった仮説を立てつつ、試行錯誤できる仕掛けをスピーディに回すことが必要だと思っています。

 この試行錯誤出来る仕掛けのひとつが、月1回の定期マーケットの開催であり、サルトが長年取り組んでいる手法の1つです。

まちの期待値を高める定期マーケット

 未来のまちの価値は誰にも分かりません。未来は誰にも予測できないからです。だとすれば一度未来を想像してみましょう。つまり、未来はこんなふうに素敵な地域になるんじゃないか?という仮説を一旦設定してみるわけです。

 どんな人がこの地域の価値を理解して好きになってくれるのか。地域の要素(コンテンツ)を丁寧に紐解いて「未来のお客さん」について考える。

 潜在的な地域の魅力を引き出して、「未来のお客さん」が楽しんでいる方向性を見極め新しい価値を作り出していくのです。

 地域は多くの人にとって既に価値が無くなってしまったからといって、地域を総入れ替えすることはできません。もちろん移動することもできない。

 だから地域に現在残るコンテンツを活かすことで独自の価値を作り出すしかないわけです。地方駅前再開発の墓標を見れば一目瞭然、新しいコンテンツを入れ替える(入れ替えられずに墓標になる地域も多いけど)ことでは地域の衰退は止められないのです。

 どこにでもあるような、地域の良さを全く伝えない駅前再開発墓標を作るのではなく、地域のコンテンツを再評価しつつ、価値を失ったエリアに新たな価値が生まれる仕組みを導入する。

 結果、新たな価値が生まれるのではないか?という空気感、「まちの期待値」を高めていく。

 サルトでは、この「まちの期待値」を高めるために月1回の定期マーケットを仕掛けつつ、地域の魅力を伝える広報PR、老舗等地域の魅力的なコンテンツを守り育てる仕掛け、遊休不動産をリノベーションして新たなコンテンツづくり等に取り組んでいます。

 地域に元気が無い本当の理由は、地域に求められている価値が変化し、多くの人に見放されてしまったからです。

 しかし未来に求められる地域の価値は誰にも分からない。だから仮説を立てて、地域の新しい価値が生まれる仕掛けをつくり、その仕掛けをスピーディに回していく。

 その1つの手法が定期マーケットになります。

地域の新陳代謝にこっそり刺激を与える

 月1回の定期マーケットは、地域の新しい価値につながるかもしれない多種多様なチャレンジが自発的に起こっていく仕掛けです。もちろんですが、集客イベントではありません。なので集客は二の次。

 衰退しつつあるエリアで、これまで見えにくかった新しいチャレンジの常態化は、地域の新陳代謝にこっそり刺激を与えていきます。毎月毎月、漢方薬のように効き目が出てくる。

 地域商業のダイナミズムを感じることができる継続的な新しいチャレンジと、加えてこれまで地域に訪れていなかった、将来において地域を好きになってくれる可能性のある、しかも周辺に住む一定層が毎月訪れることによって、なんとなく地域が新たな方向に動こうとしている雰囲気が可視化されるわけです。

 既存店舗の売上が減少していようが、空き店舗や空きビルがたくさんあろうが、月1回の定期マーケットを実施することによって、なんとなくあの地域が面白いかもしれないとか、何か新しい事が起きそうだとか、マーケットに行くと新たな出会いが期待できると感じられるよう仕掛けていきます。

 そのことでまちの期待値が少しずつ高まっていく。

 そうすると、これまでは自発的に出てこなかった、地域で何かしてみたい企業家や投資家が出てきます。その人たちにとって、定期マーケットにおいて可視化された地域の新しい市場は、リスクをとって商売やチャレンジをする上での好材料になるというわけです。

 月1回の定期マーケットは、小さなリスクをたくさん生み出すことで、そのリスクに見合うリターンがあることを実感してもらえる場でもあり、それが見える化される場でもあります。

 小さいけれどリターンがあることが分かると、その結果、この地域で何かできるんじゃないかという、地域への期待値が、出店者にも、集まってきた起業家や投資家にも高まっていきます。

 衰退しつつある地域で、いきなり投資をして、博打のようなリスクを取るのは危険です。もっと言うと、それで失敗すると、もっと衰退感が強まる。それよりもまちの期待値を高めて、自分たち以外にもこのまちでリスクを取れる人を増やしていくことで、地域は変わっていくと思います。

 リスクを取る人を増やす中では、単に新しく商売を始めたい人だけではなく、地域で長年商売をしている人も巻き込むことができるのも定期マーケットの特徴です。

 これまで地域に訪れていなかった、ある一定の周辺エリアから定期的な集客がある状況を目の当たりにして、老舗も動き出す。彼らが変化するとより一層見える化が進みます。これは交流人口とか関係人口とか、そいういう人たちじゃなくて、地域の人が定期的にやってきていることが重要。

 加えて、投資リスクの大きさに身動きが取れなかった物件オーナーも、小さいけれど、多様なチャレンジが常態化されている場面を見聞きすることで、変わっていきます。

 サルトがかかわる地域では、定期マーケット運営をしつつ、新たなチャレンジャーとつながり(リーシングできることで)、物件オーナーにとってかなり低リスクで所有物件の活用を進めてきたました。

 それも1つのエリアだけではなく、枚方、丹波、伊賀、芦原橋、昭和町といった複数の地域で遊休不動産の活用が無理なく進むことを経験し実感しています。

 このような仕掛けが、月1回の定期マーケットです。

 単なる集客イベントではなく、地域を変える仕掛けであり、集客ではなく、地域の価値を作り出すことが定期マーケットの目的となります。

 次回は、定期マーケットで抑えておきたい10か条を少し長いですが一挙に説明ますので、お楽しみにー。


この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・答えのない時代に答えを出すには
・まちの期待値を高める定期マーケット
・まちの新陳代謝にこっそり刺激を与える
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画


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