リボンのついた服
ロングスリーブTシャツにパンツ、コンバースのスニーカーというシンプルで清潔感のあるファッションの同僚がいる。
私より半年先に入社していて、まだ20歳になったばかりの女性だ。
1人暮らしを始めたばかりで、「今日はちょっと寝坊しちゃったので焼きうどん弁当です」とはにかむ姿に、自分の10年前を思い出して恥ずかしくなる。
物に溢れた汚い部屋で、毎朝バタバタとリップを塗りながら小走りで家を出る一人暮らし15年目(うち4年の結婚期間あり)に突入してしまった。
そんな彼女と外出する日。
いつもと違う雰囲気のシャツを着ていたので、「シャツ、可愛いですね」と思わず声をかけた。
ベースはシンプルな白シャツなのだが、ボディと袖部分に細いリボンがたくさん付いていて、上品なのに一癖あって可愛らしい。
彼女は「ありがとうございます」と照れくさそうに笑うだけだった。
本人曰く、内向的で照れ屋なのだそうだ。
彼女と2人きりで外出するのは初めてで、道中はたくさん話をした。
お互いまだ入社して1年も経っていないため、慣れない環境での悩みも多い。
普段話さないようなことを互いに吐露したこともあってか、会社に戻る頃には彼女の表情も柔らかくなり、「お昼食べすぎて眠くなってきちゃった」なんていう独り言が溢れるまでになっていた。
私は転職経験が多く、長く勤めた前職も少人数だったため、後輩らしい後輩と接したことがほとんどない。
年下の友人もいるけれど、3歳以内の歳の差なんてほぼ誤差みたいなもので、なんなら私よりもずっと落ち着いていてしっかりした子たちばかりだ。
だから、同僚とはいえ13歳も歳の離れた女の子と接するのは少し緊張した。
答えたくないような質問はしたくないし、変な圧も感じてほしくない。
この時間が彼女にとって苦痛なものでなければいいなあ、とどこか祈るような気持ちで会社までの道を歩く。
会社まであと少し、というところで、彼女が解けた袖のリボンを結ぼうと立ち止まった。
袖についたリボンを片手で結ぶのは至難の業のようで、あくせくする彼女に笑いながら「結びましょうか?」と言えば、「すみません…」と目の前におずおずと腕が差し出された。
「このシャツ、ずっと前に買ってたんですけど、着る勇気が出なくて。皿さんがうちの会社に入ってきて、おしゃれしているのを見て、今日着てこようって思ったんです」
リボンを結んでいる頭上から、そんな言葉が降ってくるものだから、驚いて、嬉しくて、「ええ〜!いやあ!嬉しい〜!!すっごく似合ってますよ!!!」と空回った大きな声が出てしまった。
「お金が貯まったら、皿さんに服を選んで欲しいです」
と言われて、ああ、おしゃれが好きで良かったなあと心底思った。
こんな風に、変わりたいと思う誰かの眩しい背中を押すことができるのだから。