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あのポアロが脇役で黙っていられるはずない『三幕の殺人』※ネタバレあり

ポアロシリーズ9作目『三幕の殺人』

この作品もなかなか異色な構成で、私の大好きなヘイスティングズはおろか、ポアロすら後半までほとんど出てこない。ストーリーの大半は、メインとなる登場人物らが素人探偵団的な動きをしているのを読ませられているという印象だ。

※以下、犯人が分かるネタバレ箇所があります。未読の方はご注意ください。

今回はクリスティー作品にしては珍しく?ラストにぞくっとさせられる。スッキリするものよりも多少後味の悪いものの方が個人的には好みなので、この終わり方は好きだった。ただ、ポアロが出てくるまでの展開が少々間伸び気味というかちょっと退屈な印象を受ける。実際、登場人物たちでさえ、行き詰まりを感じているのだから当然といえば当然なのかもしれないが。そんなわけで、実はしばらく読むのをやめていた。一応表向きの理由としては、前作の感想を書いていないからということにしていたが、単純に内容に入り込みにくかったというのが正直なところかもしれない。

入り込みにくさの要因として、感情移入のしづらさが挙げられるだろう。
カートライトは心からエッグを愛していたとは到底思えないし、エッグもまたカートライトを愛しているようには思えなかった。本当に若さゆえの一時的な感情に思えてならない。そういう意味ではいい歳したカートライトはなんというか、滑稽というか愚かというか見てられないという感じだった。自己愛が強すぎる役者ゆえの犯行なのかもしれないが、あまりにも自分しか見えていなくて呆れてしまう。
そういう意味でも今回は全く感情移入できなかった。殺人にも様々なケースがあって、善悪では判断つかないものもある(前作はまさにそういう類の殺人だったと思う)が、今回のは同情のしようもないし、動機も身勝手で、挙句のはてにポアロが殺されかけてたかもしれないなんて聞いた日にはもう。

余談だが、某有名ドラマの犯人がサイコパス的な思想の持ち主だったというオチでひどくがっかりした経験がある。別に禁忌を犯しているわけではないが、興醒めしてしまうのだ。私はミステリーを読むときに殺人の動機の部分をとても楽しみにしている。こう書くと私自身ちょっと危ない人のように見えてしまうかもしれないが、殺人という大きなことを起こすまでの心の動きや過程にすごく興味があるのだ。心理学を専門としている者としての性なのかものかもしれない。だから、そういう人格でした、えへへみたいなオチのつけられ方をされると、肩透かしを食らった気分になる。実際の殺人の話ではなく、あくまで創作されたものなのだからそこには明確な動機や細かい心理描写が欲しいのだ。カートライトの場合はサイコパスというわけではないが、やはり苦悩や葛藤が感じられにくいのでなんだかなぁと思ってしまう。

ダラダラと不満に近いことも書いてしまったが、ポアロが出てきてからはいつも通りの面白さになるので、そこまでは金持ちの道楽に付き合ってあげるくらいの広い心を持って読むのがおすすめかもしれない。

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