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舞台の魅力と並存する素朴さ

前回から随分間があいてしまった。

ポアロシリーズ5作目
『青列車の秘密』

クリスティーの列車ものだとオリエント急行殺人事件が有名すぎるからなのか、この作品はタイトルすら初めて聞くものだった。

内容としても比較的シンプルな作りで、特に目立ったしかけや見せ場もない。普段犯人のことは考えずに読むが、今回は早い段階でもしかしたらこの人かもなぁと目星をつけていた人がそのまま犯人だった。なにせクリスティーが用意した伏線の一つがめちゃめちゃわかりやすかったので、何でも疑う癖のあるミステリー好きさんならすぐに気づいてしまうかもしれない。ある意味わかりやすい構成だったなと思う。

クリスティー自身、この作品はあまり気乗りせずに書いたと言われているため有名な作品と比較するとどうしても平凡な印象は否めない。
作品そのものに熱が入っていない感じがすることも理由としては大きいだろう。もし、クリスティーを全く読んだことのない人にオススメを聞かれても、正直これは薦めないだろうなと思う。ものすごくファンで、コアなものも読みたい人向けの作品かもしれない。

私個人としてはヘイスティングスがいないことが何より寂しかった。相棒役のキャサリンは良くも悪くも冷静でいわゆる良い子なので語り手としては優秀なのかもしれないが、少々物足りなさがあった。むしろ、彼女の周りに出てくるキャラが揃いに揃って濃かったので調整されたのかもしれない。

やはりポアロとヘイスティングスの掛け合いがないだけで面白さも半減してしまう。少なくとも私にとっては。そういう意味でも、前作のビッグ4は二人のファンにはたまらない作品だった。

あまりぐちぐち書いてもあれなので面白かったことも書いておくと、小ネタとしておお!と思ったのはミス・マープルの住んでいるセント・メアリ・ミード村が出てきたこと。それぞれのシリーズに繋がりを感じると嬉しくなる。
そしてミステリーでありながらクリスティーは恋愛を含む人間関係の心理描写が本当にうまい。この作品もそうだし、ナイルに死すもそうだったけどもつれた人間関係の描写が妙にリアルでそこに引き込まれてしまう。私がクリスティー作品に魅力を感じるのはトリックやプロットよりもこの部分だなと思う。

ちなみにドラマ版はキャサリンとポアロがもう少しドライな関係で描かれているらしいので、近々見てみるつもり。実は名探偵ポワロを見るためだけにU-NEXTに登録しているので小説のドラマ版は全て見ている。今回の作品は豪華な列車や宝石が出てくる分、映像映えしそうで楽しみ。

「鏡は真実を映しますが、人はそれぞれ違った場所に立って鏡をのぞいています」 p.405




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