見出し画像

最後まで手のひらの上で転がっていた

ポアロシリーズ7作目『エッジウェア卿の死』


私にしてはえらくハイペースで読み進められていて、自分でも驚いている。
前作の邪悪の家と同じくポアロとヘイスティングズのコンビがメインとなるストーリーなので、馴染みやすかったというのが一番の理由かもしれない。スタイルズ荘、ゴルフ場殺人事件の頃はまだ探り探りだったが、このあたりで2人のキャラが定まってきたような印象を受ける。その分、お互いへの軽口も増えて小競り合う様子も楽しい。

※犯人がわかるようなネタバレはしていません。
未読の方も気にせず読んでいただければと思います。

本編に入る前に、気になったことを一つ。私はポアロシリーズは全てハヤカワ文庫で読んでいるが、翻訳ものは翻訳者に左右されるところが大きいというのを今回初めて実感した。というのも、前作の邪悪の家とスタイルが似ている作品だったので細かいニュアンスが結構違うなと感じたのだ。今作品は表現が全体的にちょっと硬い。古いとも違って、なんと言いようもないが『ちょっと硬い』感じがする。そういう好みで言えば私は邪悪の家の方が好きだった。でもこれは好みが分かれるところかもしれない。今までは全く気にしていなかったので、今後は誰が訳しているのかというところも意識してみようと思う。

本編については、なかなか感情移入しづらいストーリーだった。ミステリーに感情移入というのもおかしな話なのかもしれないが、なんだかなぁという感じ。犯人の発想が短絡的というかなんというか。そのくせトリックはしっかり考えられているというそのアンバランスさがなんとも不自然で、読後はあまりスッキリしない。ただ演出が結講凝っているので、映像でみた方が面白いタイプの作品なのかもしれないなという感じ。

ちなみに宣言通り自分なりに推理しながら読んでみたが今回は全く当たらず。最初から最後までクリスティーの手のひらの上で転がされてしまった。どのセリフを疑って、どのセリフを字義通り受け取るのかという見定めが難しい。

「いや、いや、われわれはただ可能性を論じているだけなのですよ、これは服を選ぶのと似ている。ほら、これが合うかな?いや、どうも肩のところがしわになるようだ。
じゃ、これかな?うむ、これならいいーーが、少し身体が窮屈だ。このもうひとつのほうは小さすぎるしーーうんぬん、という具合にね、完全にぴったり合うやつーーすなわち真相にぶつかるまでやってみるのです」
エッジウェア卿の死 p.139^140

私は細かいところに気を配れない性格なので、肩のしわを気にせず着てしまえる。だから犯人にたどりつけないのかもしれない。そう考えると、ポアロの几帳面さと神経質さは探偵にとって重要な気質だなと改めて思う。余談だが、謎解きも細かいところが気になるタイプの人の方がよく解けているイメージ。いかに脳の補正をかいくぐれるかというところなのだろうか。

最後に、今作品の個人的に胸熱シーンを。
ポアロがヘイスティングズに言ったこのセリフでしばらく悶絶してしまった。

「わが愛するヘイスティングズ」ポアロは呟いた。
「わたしはほんとうにあなたが好きですよ」
エッジウェア卿の死 p.231

ど、どっ直球すぎませんか。
こんな言われ方されたらこっちまで照れてしまう。なんて罪な人なんだ、ポアロ。ここにきてこんなこと言われたら、この後どれだけ自慢話されても許しちゃうもの。飴と鞭の使いわけがうますぎるでしょ。慌てて話を変えちゃう大尉の気持ちがよくわかる。私はコンビとかシンメとかそういう関係性にめっぽう弱いので、このセリフが聞けただけでも今作品は読む価値があったと思う。それくらい尊かった。

さて、次はすでにオチも知っている超有名作。
実はこの記事を書くのが遅すぎてもう読んでしまったので、また近いうちに記事にできればと思います。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,831件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?