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【月の砂漠】地獄

認知症の母の頭の中のバケツは、もう満杯で何も入らない。

でもバケツの中の物はよく覚えています。

そんなバケツの底の方に【月の砂漠】があります。

母がまだ小学生くらいの頃に、近所に住むお姉さんがよくピアノで弾いていたという【月の砂漠】

毎日毎日それを聞いているうちに、自分も覚えたんだとか。

母の実家は裕福ではなかったので、家にピアノはありませんでした。

母は60歳を過ぎてから自分でエレクトーンを買い、自己流ながら【月の砂漠】はもちろん、リチャードクレーダーマンの曲や、韓国ドラマの【冬のソナタ】の曲なども弾いていました。

認知症を発症してから1年くらいは、エレクトーンの存在すら忘れたようでしたが、ある日突然【月の砂漠】を弾くようになったのです。

しかもちゃんと両手で。

ところが一度弾き始めると、この曲だけを延々と弾くのです。

時間の概念が薄れているからか、自分ではどのくらい弾いているかわからず、1時間以上弾いていることも。。。

しかも微妙に伴奏の音がずれていて、結構な不協和音。

聞いて(聞かされて)いる家族はかなりのストレスで、我が家ではこれを【月の砂漠地獄】と呼んでいます。

それでも曲に合わせて、体を揺らしながら気持ちよさそうに弾いている母を見ると、「ま、いっか。」と我慢する私たちなのです。

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