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小田原 江之浦測候所 〜天空を体感する美術館〜

コロナ禍の美術館鑑賞

コロナ禍での美術館は、完全予約制のところがほとんどです。日時指定チケットの販売をはじめ、人数制限もいつもより厳しく設けられています。
とは言え、休日に遠くに出かけることにはまだ抵抗や後ろめたさがあります。
さらに在宅ワークに慣れてしまった身体は、仕事以外で出かけることに億劫になっているようです。
そんな時、本屋で手に取った雑誌
「casa BRUTUS杉本博司が案内するおさらい日本の名建築」の表紙を見て、
どうしてもこの景色を見たい、見に行きたいと久しぶりに心が動きました。

さて表紙の写真は神奈川県小田原市にある小田原文化財団 江之浦測候所の
光学硝子舞台でした。
小田原文化財団は2009年に杉本博司によって設立された公益財団法人。
2017年に開館した江之浦測候所は、相模湾を臨むみかん畑の跡地に点在する建築群です。

正面に飾られた杉本博司の作品。
モノトーンでまとめられた空間に置かれたベンチの赤が拍手をしたいぐらい美しくて、写真におさめました。
このスペースは待合棟の地下にあります。

冬至光遙拝隧道

「人の最も古い記憶」を現代人の脳裏に蘇らせる為に、江の浦測候所は構想された。ー杉本博司

天空を測候することにもう一度立ち戻ってみる。
そこにこそかすかな未来へと通ずる糸口が開いているように私は思う。
-杉本博司

この景色に逢うために、私はここに在ると思いました。とても強く。
この建物の本来の目的は、測候です。冬至の日、水平線から昇る太陽の光をまっすぐに受け取ることができるように設計されています。
その陽光こそが、未来への糸口だと私は理解しました。頭でも心でもなく、降り注ぐ光を身体全体で受け止めることができる感覚、体感する喜びがここにあります。

杉本博司の作品


初めて杉本博司の作品を見たのは、香川県ベネッセアートサイト直島で訪れた家プロジェクトの1つ護王神社です。

護王神社は2002年に建てられました。
杉本博司の初建築作品です。
硝子の石段が美しく、そこに至る漆黒の空間で感じたのは、畏怖の感情でした。

光学ガラスは、杉本博司のスタンダードマテリアルで、光学硝子舞台にも使われています。
ガラスは、繊細で魅力的な素材だと思います。
護王神社の地下にある石室と地上を繋いでいるガラスの石段。
石段は、古来から神様の通り道とされていました。
また、石段をガラスにすることで地上の光を地下まで通すことが可能になりました。
「神は光である。」
漆黒の闇の向こうに差し込むまばゆい光は、明るさを超えた存在だと思います。

光学硝子舞台

檜(ひのき)を櫓(やぐら)状に組んだ構造の上に光学ガラスを置き並べた
光学硝子舞台は、冬至の太陽軸に直面して設置されています。
冬至の朝、太陽の光は海からまっすぐこの舞台に届くように設計されています。
神様を迎えるための舞台。
冬至が死と再生の象徴であることは、杉本博司の作品から知り得た知識です。

石棒 縄文時代後期

ガラスの社に納められているのは、古代、祭祀で使われたとされる石棒。
古代と現代の美しい共存です。

数理模型0010

数学上の双曲線関数を目に見えるように金属で模型化した作品。
基壇は、反射望遠鏡のために作られた
光学ガラスで出来ている。
豊かな緑に囲まれ、相模湾を臨む位置に建てられたアート作品。
先端部は5㎜。
アーティストの構想を具現化する職人の
技に感服しました。

双曲線
まじわる場所は 無限遠
みへるはどこぞ 
宇宙の果てか
ー杉本博司


約2時間、みかん畑を歩き回りました。
でこぼこ道を登ったり、降りたりの繰り返しでした。アートが点在していなければ、こんなには歩けなかったと思います。
普段、階段よりも坂道の方が歩き辛く、苦手です。
最初に荷物を預けた待合棟に戻り、一休みしました。
受付で貰ったパンフレットを見返し、
見逃した作品はないか、もう一度見たい作品はないかをチェックしました。
反芻する時間も楽しむことができる待合棟もまた素敵な空間です。

機会があれば、ぜひお出かけください。


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