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体は全部知っている

体は全部知っている。

犬が亡くなって数日した頃、ちょっとした腹痛を感じるようになった。
腹痛の位置もそれほど心配になるような場所ではなかったし、痛みもさほど強くなかったので、そのうち治るだろうと思っていた。この痛みは精神的なものから来るのだろうと推察もできたので、それほど心配していなかった。

だが、痛みは数日しても弱まらず、それどころかどんどん強くなった。
朝起きた瞬間に痛みを感じ、体を動かすことすらままならなくなって、ようやく私は病院に向かった。その頃には、病院までの5分の道のりを15分かけないといけないくらい、強い痛みになっていた。

胃腸内科につき、先生と痛みについて話す。
「いつから痛いんですか?」「どこがどのように痛むんですか?」「触診しますね〜」

実は去年虫垂炎をやったので、腹痛の際に医師がどこを見ているかは大体わかる。痛みの種類、場所が推移するか、歩いている時と止まっている時のどちらがより強い痛みか・・・それらを勘案しても、やはり私の腹痛はそれほど「緊急事態」ではなさそうだった。

ふと先生が聞いてきた。
「お通じどれくらい出てます?」

その瞬間に、私の記憶はまさに走馬灯のように走った。
そういえば、しばらく行っていないような気がする・・・?

そう、私の腹痛の主な原因は便秘だったのである。
言われてしまえばびっくりなのだが、あまりにショックを受けていた私はそのことに気づいてもいなかった。

その後、先生は丁寧に説明してくれた。
大腸の蠕動運動は自律神経が司っていること。
自律神経の乱れによって、大腸が動かなくなると便通が悪くなり、さらに行き場を失った便が滞留することでガスが溜まり、膨満感を生むこと。(この時の私のお腹はパンパンだった。)

「何かストレスとか、ショックなことありました?」と聞かれ、
「実は先週愛犬が亡くなりまして・・・ショックを受けているのは自覚しています。」と答える。

その後マグネシウムと漢方薬が出され、私の腹痛は大体1週間ほどで完治した。
普段お通じで悩まされたことがないので、便秘でこれほどの痛みが発生するとは、全く知らなかった。侮ることなかれ、である。

そしてしみじみ思う。
体は、やはり全部知っている。


犬が亡くなって、今度は父の病状がみるみる悪化の一途を辿った。1週間ごと、いや、下手したら1日ごとに体調が悪化していく。そんな父を見るのは忍びなかった。

およそ4週間後、家族全員が見守る中、父は亡くなった。

父が亡くなってからは怒涛の日々だった。
とにかく決めなければならないことが多すぎる。
葬儀はいつやるのか、どの形式でやるのか、火葬はいつやるのか。
誰を呼ぶのか、誰に連絡するのか、返礼品は何にするのか。

余談ながら、亡くなった週の週末の火葬場にはもう空きがないと言われた時は、「これが高齢化社会か・・・」と思った。

慌ただしく日々が流れていく中、私はあらかじめマグネシウム錠を飲み始めた。
これもまた、ララが残してくれた「学び」だなぁと独りごちながら。
おかげで腹痛に悩まされることはなく、お客様のおもてなしができ、私もなんとか多少の戦力として母を支えることができた。

一方で、やはり私の体調は「いつも通り」とはいかなかった。

明らかな変化は、私の食欲であった。
食べられなくなるのではない。異常にお腹が空くのだ。食べても食べてもお腹が満たされず、中学生男子のような食欲でご飯を食べた。

葬儀の準備、その前後はとにかくやることが多い。客人も多いので、とてもじゃないがご飯を作っている余裕はなく、毎食店屋物やスーパーでのお惣菜を食べる日々が続いた。必然的にカロリーの高いものが増える。寿司、揚げ物、丼もの・・・その全てを、私はものすごい勢いで食べ尽くした。

私の体に起きたもう一つの変化は、「とにかく眠い」ということだった。
9時をすぎると眠くて起きているのが辛い。宵っぱりの兄と姉が毎日遅くまで起きているのを尻目に、私は毎晩一人早々に寝ていた。

たらふく食べて、ひたすら寝る。
生き物としては、非常にバランスが悪い。
だが不思議なことに、私の体重は増えるどころか減少していた。
なんだかよくわからないが、何かにエネルギーを使っているようだ。

父が亡くなってから10日後、久しぶりに走った時も、驚くほど私の体は疲れなかった。どこまでも走れそうな体を感じながら、きっと今私の体はエネルギーを貯めようとしているのだな、と感じた。


しばらくするとガクッとくるよ、と何人もの人に言われたが、おかげで葬儀の前後で体調を崩すことはなかった。

愛犬と父の体調が悪化してから、私と母は優先順位を立てて生活するしかなかった。
後回しにできることは後回しにするしかない。
結果、我が家の庭は荒れ放題だった。

父が亡くなってから10日以上たち、少し落ち着いたところで、久しぶりに庭の手入れを再開した。日本はようやく気温が下がり始め、蚊の大量発生が報道されている時期だった。今夏は暑すぎて、蚊すら生存できなかったようである。

虫除けスプレーをして、長袖長ズボンで挑んだものの、もれなく私も大量に蚊に刺された。そもそも私は昔から蚊に好かれやすく、私といると他の人は蚊に刺されなくて済むくらいである。

ここでまたいつもと違うことが起こる。
蚊に刺された跡が、異常に腫れるのである。痒みもいつもより強く、夜寝ている時も苦しむほど。

季節外れの蚊は何かいつもと違うパワーがあるのか?と思ってあれこれ調べるなかで、私は全くもって基本的な科学知識に行き当たった。

「虫刺されは免疫反応なので、個人差があります」

全ては免疫反応。私の免疫反応が現在落ちているだろうことは想像に難くない。やはり、体は全部知っているのである。

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