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あなたのものがたり

あなたのお父さんはあなたが4歳の時に一度死にましたね。

実際には生きていましたがいないのと同じでしたね。

あなたはとても苦しい思いをしましたね。

小さいあなたはいつもこう考えていました。

私はひとりになったらどうなってしまうのだろうと。

お父さんもお母さんも居なくなったらどうしようと。

毎晩寝る前がいちばん怖かったですね。

明日になったら誰も居なくなってしまうのではないかと…

今思えばあの時からあなたにとっての毎日が最終日だったのかもしれませんね。

常に寂しさと悲しさと背中合わせ。

親戚の家のどこに行ってもソワソワして休まらない気持ち。

唯一の味方で居てくれるお母さんもおばあちゃんもそこにはいない。

寂しい気持ちも苦しい気持ちもやるせない気持ちも怖い気持ちもずっと誰にも言えなくてひとりで泣いていましたね。

子供同士はみな残酷です。

それは素直で包み隠さない心があるから仕方がないわけで悪気はないのです。

なのであなたは嫌だとは言いませんでしたね。

そう、嫌だと言ったところですぐに何かが解決するわけではないのが解っていたからです…そういう意味ではあなたはずっと嘘をついていたのかもしれませんね。

どんなに泣いたところで現状が変わらないならずっとただただ待つしか方法はないのです。

心細い気持ちを押し殺してあなたはずっと待っていたのだから。

それでもずっと待っているといつかそれはやって来るんですね。

それは待ち続けないと見えない世界なんですね。


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