ぼくの番台

ぼくは毎日番台にいる。

長年銭湯をやっているのだけれど今日は面白いお客さんが来た。

夕方6時。

外は暗い。

いつもは常連さんしか来ないこの時間。

女湯の扉を開ける音がする。

『いらっしゃい』ぼくは声をかける。

初めてみる顔だ。

その人は入ってくるなりニコニコしながら

『ここやってるんですか?』とたずねてくる。

『やってますよ』とぼく。

『いつもやってますか?』とまたニコニコ。

『たまに休むけどやってます。』とぼく。

そりゃそうだ。うちの銭湯は古い。

やっていると思う人は少ないだろう…

じいちゃんが始めたこの銭湯。

ぼくで3代目。

昔は賑わっていた。

いちばん賑わっていたのは親父の代の頃。

ぼくはまだ小さかった。

毎日来ていたおじいちゃんやおばあちゃんはもう来ない。

当たり前だが時代は移り変わる。

この銭湯の存在を知っている年代はもう少ない。

細々とやっている。

それでもホームページを見て遠くからやって来てくれるお客さんもいる。

それぐらいでいい。

ぼくの居心地がいいのだ♪

今はいろんなところに温泉がある。

施設は整っているしサービスが行き届いている。

ぼくの銭湯はそんなに気が利いていないけれど

それでもここがいいといって来てくれる。

それでいいんじゃないかと思う。

別に意地を張って変えないわけではないんだけどぼくがこのレトロな感じが好きなんだ。

綺麗にするのは簡単である。

お金をかければ綺麗になるしもっとお客さんも来るだろう。

ただ歴史はお金を出しても買えないんだ。。。

古くてボロボロでもじいちゃんがいて親父がいてぼくがいる。

それでいいんじゃないかと思う。

そんなことを考えていたら

『今度来ます!』とニコニコ。

そうだった。

ぼくはこの人と話してたんだっけ!

『はい♪』とぼくも笑う。

今日もぼくは番台で新聞を読む。





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