コウモリの話

コウモリはいつも鎖に捕まっていた。

逆さになって捕まっていた。

捕まっていたという表現は捉えられていたように感じるが望んで捕まっていたのだ。

どこの鎖かというとアスレチックの鎖なのだが丸太でできたアスレチックの両側3本ずつ、上、真ん中、下というふうに6本の鎖が渡されていた。コウモリは左側の上の鎖のいちばん左端にいつもいた。

当たり前に思われているがコウモリはぶら下がるのが得意だった。

コウモリはいつもぶら下がって鎖に捕まっているのが得意だったので鬼ごっこではいつも捕まらないのだ。

絶対に捕まらない。最後まで逃げ切れる。

果たしてコウモリは逃げるのが得意なのか?
逃げ切りたいのか?

実はコウモリは捕まえて欲しかったのだ。

鎖はその構造上動くにはとても不安定だ。
不安定さはドキドキを誘う。

コウモリは鎖の少し錆びた鉄の匂いをよく覚えている。

エコーロケーションができてしまう以上相手の位置がわかってしまうので自分から捕まりに行かない限り捕まらない。

コウモリはいつも思っていた。

この自分が捕まってぶら下がっている鎖がいつか切れるのではないかと…常に思っていた。

そしていつも想像していた。

鎖が切れれば怖いけれど下に落ちる。

そうすれば鬼に捕まれる。

ここでおかしなことに気がつかないだろうか?

コウモリなんだから飛べばいいのに。

ずっとぶら下がっていないで飛べるでしょ?

簡単なことだ。

しかしコウモリは自分が飛べる事を知らなかった。知らないことはそれを知るまでわからない。

教えてくれる誰かはどこにもいなかったし、じつはコウモリだと思っていた他のみんなはコウモリじゃなかったのだ。

だからみんな捕まえてもらえるし不安定でドキドキを誘う鎖も違う楽しみ方をしていた。

コウモリはいつも矛盾していた。

捕まりたくないのに捕まりたい。みんなが鬼に捕まるように鬼に捕まえて欲しかったのだ。


自分で飛べる事を知り自分で捕まることも知ると知らなかった方が良かったと思うこともある。

だからといって後悔はなくむしろ知れたから解る。

解るというのは選択肢がある♪

コウモリの真ん中は変わらない。

だからコウモリは儚さと一緒に飛ぶ。






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