1958年から描かれ続けた「札幌の女性」とは?「銘菓 札幌娘」のパッケージデザインの変遷と歴史をご紹介
札幌千秋庵の代表商品のひとつである「札幌娘」は、1958年(昭和33年)の発売から、67年目をむかえるロングセラー商品です。この「札幌娘」という商品は、2023年10月に6代目のパッケージデザインにリニューアルいたしました。
今回の【一日千秋】は、昭和から令和までの「札幌娘」の歴代パッケージに描かれてきた「札幌の女性像」に注目しながら、パッケージデザインのリニューアルを担当したデザイナー嶋田佳那子さんのインタビューを紹介します。嶋田さんがどのような想いでパッケージを手がけ、どのようなアイデアを盛り込んだのか、詳しくお伝えします。もともと「札幌娘」を知っているという方はもちろん、「札幌娘」を知らなかったという方にも、「札幌娘」を知るきっかけになっていただけたら嬉しいです。
銘菓「札幌娘」とは
「札幌娘」は生地の中に桃山餡と甘栗をまるごと1粒入れて、アルミホイルで包み焼きしたお菓子です。ホイル焼きにすることで、栗の風味を逃さず、しっとりとした食感に仕上がります。まずは製造工程を写真でご紹介します。
「札幌娘」のデザインの変遷
「札幌娘」は“パッケージ”のデザインはもちろんのこと、お菓子の箱に同封されていた“しおり”のデザインにも歴史があり、その時々の時代や流行に合わせたイラストが使われています。ここからは「札幌娘」のデザインについての変遷を写真とともに振り返っていきたい思います。
ー パッケージデザインの変遷をご紹介します
【初代 パッケージ:1958年~2003年頃まで】
初代パッケージは、栗の中にかわいらしい女の子が描かれています。また、お菓子を奉書紙(ほうしょし)で包んでおり、贈答用としてもご好評いただいておりました。
【二代目 パッケージ:2004年~2010年頃まで】
パッケージのデザインに大きな変更はありませんが、和紙のような素材を使った個包装フィルムに変わります。個包装フィルムになったことで、初代パッケージの時と比較するとお菓子の保存性が高まりました。
【三代目 パッケージ:2010年~2012年頃まで】
描かれている栗の数が2個→3個に増え、さらに女の子のイラストが追加されています。当時、札幌千秋庵で販売されていたお菓子のパッケージに描かれていた女の子のイラストが、そのまま加筆されたようです。
【四代目 パッケージ:2013年~2020年まで】
「札幌娘」のパッケージデザインの歴史の中で唯一、「女性モチーフ」以外のデザインだったのが、この四代目のパッケージです。栗のイラストを残しつつ『札幌時計台』のイラストが登場します。
【五代目 パッケージ:2020年~2023年まで】
2020年4月、札幌千秋庵本店のリニューアルと同時期に登場したのが五代目のパッケージです。発売当初から長年続いてきた、可愛いらしい女の子をイメージしたイラストと、カラフルなパッケージが特徴でした。
ー お菓子の掛け紙、しおりの変遷をご紹介します
続いて、「掛け紙」や「しおり」のデザインの変遷についてご紹介します。パッケージには「可愛らしい女の子」が描かれていましたが、掛け紙やしおりには、パッケージとは少し違ったテイストでその時々の札幌の女性像(=札幌娘)が描かれています。
【お菓子の掛け紙:1958年~2017年まで】
1958年の発売当時から2017年まで、「札幌娘」には詰合せ用の箱の蓋に掛ける掛け紙がありました。実はこの掛け紙のデザインが「札幌娘」の中では、最も長く使用されていたデザインです。
掛け紙に描かれた女性は、パッケージに描かれていたような「可愛らしい女の子」ではなく、「少し成長した少女」のように見えます。画風もパッケージのイラストとは異なります。
そしてここからは、お菓子の箱に入っていた「しおり」をご紹介いたします。
【初代 しおり:1958年~1970年代頃まで】
「行きずりにハッとする美しさを感じさせるのも
さっぽろ娘なればこそかもしれません」
しおりの左側に文章があり、その横にはパッケージや掛け紙とはまた違った画風の、どことなく昭和の時代を感じさせる女性が描かれています。実はこのイラストの裏側にはバネがついていて「飛び出す仕掛け」になっています。とても斬新なデザインですね(笑)
【二代目 しおり:1970年代後半~2016年頃まで】
1970年年代後半から2016年頃まで使用されていたしおりには、初代のしおりとは違った画風で描かれた女性のイラストが使われていました。ここでもバネ付きは健在です。
【三代目 しおり:2017年以降~2020年頃まで】
2017年に登場した三代目のしおりには、現代的な画風で描かれた女性が登場します。残念ながら、バネはこのタイミングでなくなりました。
さて、お菓子の個包装パッケージや掛け紙、しおりのデザインは時代とともに変化してきました。改めて年代別に見てみると、時代の移り変わりとともにさまざまな女性像が、その時々のテイストで描かれてきたことがわかります。
「六代目」の新しいパッケージデザインが登場!
そして2023年(令和5年)10月。千秋庵製菓のデザイナー 嶋田佳那子(しまだ かなこ)さんが手がけた新しいパッケージデザインが完成しました。
デザインのコンセプトについて
-「札幌娘」との出会いについて教えてください。
嶋田:千秋庵製菓に入社するまでは「札幌娘」というお菓子の存在を知りませんでした。「月の石」と同様、お菓子の存在よりも先に歴史を知ってしまいました…。「ホイルで包み焼きにしたお菓子」と聞いていたのですが、初めてパッケージを開けた時、アルミホイルに包まれた状態のお菓子が出てきてビックリしたことを覚えています。いざ食べてみると、カスティラ生地と栗の優しい甘さがとても美味しくて、昔の“しおり”にも書いてあった「おおらかな雰囲気」を感じました。
-新しい「札幌娘」のデザインコンセプトは?
嶋田:「現代の札幌の女性」がコンセプトです。発売当初の札幌娘のパッケージには、可愛らしい子どものイラストが描かれていましたが、それに対して、お菓子のしおりや掛け紙に描かれていた札幌娘のイラストは「札幌の街にいる女性」がメインでした。
過去の資料を調べていくうちに、「札幌娘は“子ども”というより“若い女性”のイメージなのか」と感じ、「現代の札幌の女性のイメージを表現しよう」と決めました。
-デザインはどのように進めましたか?
嶋田:デザインに関する検討を進めていく中で「歴代のパッケージを参考にしよう」という方向性を決め、昔の資料を調べたり先輩デザイナーに現在までの歴史や経緯などのお話を聞くことから始めました。
「栗のお菓子」と「札幌の女性」という2つのキーワードがなかなか結びつかなくて、かなり苦心しましたね。「札幌娘」を開発した当時の時代背景や開発者の想いをくみ取って、「栗」と「女性」のモチーフを自分なりに表現したいと思い、「札幌の女性の特徴」についてネットで調べたり、周りの人に聞きながら考えを整理していきました。
いろいろな意見がありましたが、みなさんの意見の中で共通していたのは「札幌の女性は自立しているイメージがある」ということでした。私の勝手なイメージかもしれませんが、北海道、札幌という北国の厳しい環境下で育ったことが、そのようなイメージを抱かせるのではないかな?と想像しています。色々と想いを巡らせた結果、「凛とした女性」のイラストを描くことにしました。
嶋田:また、札幌娘が発売された1958年(昭和33年)は、「栗をお菓子に丸ごと使うこと」が非常に贅沢な時代だったと聞きました。そんな時代背景もあって「札幌娘」という商品名は「栗の贅沢さ」を「札幌の街を行き交う女性たちの眩しさ」で表現しているのかなと解釈しました。
その考え方をベースに、「栗のお菓子」ということを「栗のピアス」を描くことで表現する形に辿り着きました。
発売当初の子どものイラストを使った表現と、女性の横顔のイラストを使った表現で試行錯誤しましたが、「女性の横顔のイラスト」を描く方向で進めることになり、様々なパターンを描いて検討を重ねました。
嶋田:いくつかのデザイン案をもとに、最終的に採用されたイラストがこちらです。
嶋田:ピアスをした女性像を、現代的でフラットなタッチで描きました。
鼻先から額にかけて顔を覆う曲線は、バケットハットとカーテンのイメージです。顔を隠すことでベールに包まれた「奥ゆかしさ」と「凛とした女性像」を表現しています。
-デザインで、注目してほしいところは?
嶋田:白背景に紫と赤を使用した配色は、発売当初のパッケージデザインを活かしています。ライラックカラーが綺麗に映え、個包装フィルムのマットな材質感とイラストのテイストがマッチし、素敵に仕上がったと思います。
個人的に気に入っているポイントは、「昭和と現代の雰囲気がミックスされたミステリアスなパッケージ」に仕上がったところですね。幅広い世代の人に面白がってもらえたら嬉しいです。
― お菓子の撮影で、こだわったところは?
嶋田:札幌娘はとても形が崩れやすいお菓子なので、焼き目の色や、栗の位置など、ベストな状態の商品を準備することが大変でした。また、「ホイルで包んだお菓子」なので、商品ひとつひとつのホイルを剥がす作業が発生するのですが、キレイにホイルを剥がすことが大変で…。
またとてもシンプルなお菓子なので、カメラマンやディレクターのアドバイスを受けながら、お菓子そのものが引き立つ背景やお皿を選びました。栗とカスティラ生地の質感が美味しそうに撮影できたと思います。
-実際に商品がお店に並んだ時の感想は?
嶋田:私がデザインを手掛けた商品が世の中に登場した嬉しさはもちろんですが、その喜びよりもお客様の反応の方が気になります。
札幌娘は発売から65年もの歴史を重ねていることもあり、札幌千秋庵のお菓子の中でも、ファンがとても多いお菓子のひとつだと思っています。歴史が長い分、お客様が新しいデザインに抵抗感を持たないかどうか内心ドキドキでしたが、実際に店頭に商品が並んだところを見ると、白が映えていて良い感じに見えているかな…と思っています。どことなく懐かしいようにも感じる、「令和版 札幌の女性」を表現できたイラストだと評価をいただいています。
― 嶋田さん、ありがとうございました!
| 編集後記 |
「札幌娘」のお菓子について、発売開始から67年間ほぼ変わらない伝統の製法や、パッケージやしおりのデザインの変遷についてご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?今回の記事で、「札幌娘」というお菓子が歩んできた歴史と、パッケージデザインに思いを込めた若きデザイナーの挑戦を感じてもらえたら嬉しいです。