パフォーマンスいわれ26 トウキョウフリークアウトランド2018・9月「阿部定」
まずは「サディスティック サーカス」からの名称変更。大人の事情です。サディスカが集客できていることによって、「○○サーカス」のようなイベントができたようで、本家は早速名称変更、となったようです。
そしてこの回の会場は「浅草」。浅草六区の中心にある商業ビルに入っている会場「浅草ゆめまち劇場」。普段は専属の劇団が公演しているところである。「え!ここでサディスカができるの?!」私はびっくりした。案の定トップレス禁止等コンプライアンスが厳しかった。
さぁ、ここで何の演目にしよう。言葉で書くと考えたようだが、実際は即座に頭に浮かんだ。「阿部定」しかないな、と。
「阿部定」は昭和11年に実際に起こった事件。
事件の発端となる女性の名前が「あべ さだ」
簡単に言えば不倫の関係で起こる殺人事件なのだが、そのやり方が
奇異であったため日本の事件史に残ることとなった。
料亭で働く「定」。そこの亭主(吉蔵)が定にちょっかいをだし、いい仲になってしまう。二人は相思相愛。情熱的。だからひと時も離れたくない。しかし金銭的なことや妻のこともあり、吉蔵は時折家へ帰る。そんな吉蔵に嫉妬する定。吉蔵は「俺を殺してもいいぞ」と優しさを見せる。定はそんな吉蔵の言葉がだんだん身にしみてくる。吉蔵と交わるたびに首絞めを試みる。そしてついに定は吉蔵の首を絞めてしまう。
殺してしまったが「この吉さんの体は誰にも触らせたくない」と、考えた末、吉蔵の男の「もの」を切り取ってしまう。そして敷布に血液で「定吉二人きり」と書きつけ、その「もの」を懐に入れ逃亡3日間。取り調べにきた警察官にあっさりと自首をする。
これが事件のあらましである。世の中を驚愕とさせ、メディアがこぞって報道した。そしてこの事件は殺人事件であるが、メロドラマ的(純愛風)であったため、定への想いが日本人の心を揺さぶり、恩情を受けた。結果、定は懲役6年で済んだのだ(なぜか吉蔵の本妻のことは取りざたされていないし、定が元々は娼婦だったこともあまり語られてない)。
阿部定のことは本でも映画でもたくさん取り上げられている。その中でもパフォーマンスの参考となったのは、調書が書かれている「昭和11年の女 阿部定」という本(田畑出版)と、にっかつロマンポルノ「実録阿部定」(監督田中登、主演宮下順子)である。
私はそれらを見、阿部定のことが大好きになった。ある意味尊敬もした。初めてパフォーマンスとして作品にしたのはストリップ劇場での演目。1993年頃、私が30歳前後の時。私は愛する男性の「モノ」を切り取ってまで、一緒にいたい、という想いがよくわかる。しかし、、、。
定は、一度、自殺も考え遺書も書いたが、生きる道を選んだ。
この部分が私的には引っかかった。愛する人をせっかく独り占めできたのだから、このまま死んだ方が幸せではないだろうか。
なのでこのパフォーマンスでは、腹切りの自害を最期と決めた。
そして肝心の「男のイチモツ」を切るシーン。これは相手役がいるわけではないので、舞台で見せられない。そこで全てシルエットとした。そう、この演出はパフォーマンス時間の半分は、シルエットでの演技となる。
枕屏風のような障子戸を立て、その中に入り、バックライト越しのシルエットを作る。シルエットでの絡み。感極まり「モノ」を切る。障子に血しぶきが飛ぶ!
障子戸から出て腹切り。そして最期の力を振り絞り、障子に血文字を書く「定 吉 二人キリ」
絶命
この後半部の演出はずっと変わらない。私はよく泣いた。本当に感極まって腹切りしたくなることがよくあった。感情移入がしやすい作品なので、反対にふれ、もうやりたくない、と思う時期もあった。この作品は導入の前半で、その時々のステージに合わせ作り変えてきた。
そしてこの浅草では、モノローグの語りにした。「芸能の街」浅草だ。ちょっとぐらいは芝居風に作りたい、と考えたから。それにもう阿部定のこともよくわからない人々が多いだろうから、説明の意味も兼ねて。
久しぶりの「阿部定」。私は楽しんだが、やはり歳を重ねたからだろうか、熱意だけの恋愛物語に100パーセント入り込むことはなかった。
このパフォーマンスにもう一つ華を添えたのは音楽。初めて作ったときからのこだわりでキーワード「昭和11年」というのがある。この年に流行った歌謡曲に「無情の夢」がある。これを最後の曲(腹切り)に使おうと決めていた。(作詞:佐伯孝夫 作曲:佐々木俊一)
ただ歌謡曲そのままでは切腹と合わない。さっぱりしすぎている。泣きがない。そこでこの曲をアレンジしてもらおうと思った。
30代の頃の私。当時バイク集団「ケンタウロス」と知り合い、ケンタウロス関係でイベントを紹介してもらい、様々なアーティストと出会えた。その中でも某有名なサックス奏者と出会い、お話しさせてもらっていたので、まずその方に相談した。その方に快諾頂いた以上に、「友人のギタリストと共演」という提案をしてくれた。その方も超有名なギタリスト。
そんなわけで、歌謡曲をジャズメンが演奏する貴重な「無情の夢」が誕生した。
二人の演奏は、波が打ち寄せるように静かに、そして深く、泣いていた。この演奏を聴くたびに私は「定」の心情になり泣ける。そしてこのアレンジ曲は「家宝」であるとともにずっと使っている。
「阿部定モノローグ」
私は、阿部定。
誰にも渡したくないヒト、
吉藏さんとの出逢いは、運命だったのかねぇ…。
私は神田の生まれ。
十五で男を知り、
十六のときから浅草で遊び出し、それを見かねたオヤジが、
「芸者になったらどうだ」
と勧めてきた。家が貧しいわけじゃないのに。
でも私は、普通の暮らしがしたいわけじゃないから、すんなり芸者になった。
それからの私は、置屋を転々とし、ダンナを作った。
横浜、大阪、名古屋……。
三〇を過ぎた頃、
ダンナの一人が私に普通の暮らしに戻るよう、料理屋に紹介してくれた。
その料理屋の主人(あるじ)が、吉藏さん、吉さんだよ。
その吉さんが、私にちょっかいを出す。
私はそんなちょっかいに乗る気は無かったよ。
もう私は、娼婦じゃないんだから。
でも、吉さんは私をひとりの女として、ちゃんと見てくれていた。
そしてとうとう…。
吉さんとは、肌が合ったんだよ。
こんな気持ちよさは初めてだった。
だから吉さんとは離れられなくなったんだ。
もう、おかみさんの所には帰したくない。
「吉さん、あんたと離れたくない、誰にも触らせたくない」
「吉さん、殺してやろうか」
そんな私の言葉に吉さんは
「お前のためなら死んでやるよ」
って:。憎いねぇ。
それから首を絞める遊びが始まった。
首を絞めると、アレがすごいんだ。
だからつい締めすぎちゃって…。
吉さんは、
「苦しいから、途中でやめるな」って…。
吉さん。
私にそんなこと言っちゃダメだよ。
もう誰にも触らせないよ…。
2018 「阿部定」構成表
シーン1
「モノローグ」
舞台上でセリフ(動きあり)
シーン2 約4,5分
「情交」
脱ぎ~
障子入り、影だし
影でのカラミシーン
張り型影
局部切り、障子血のり
シーン3 4分35秒
「輪廻」
障子から出、局部(張り型)いとおしさ
セリフ
「私の吉さんが死んで私だけのものになりました。私もすぐ逝きます。
定・吉二人キリ」
腹切り
障子に文字書き「定・吉二人キリ」
絶命
暗転