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2010年08月03日(火)

風が心地よかったので、窓を開け放して眠ることにする。横になる前、最近恒例になっている枕投げを娘と一緒にやる。枕は二つしかないから、結局ぬいぐるみも参加することになるのだが、ぬいぐるみの時はどちらともなく力が加減される。そうしてひとしきり騒いだ後、あぁ疲れたと横になる。ふと思う。娘とこんなことに興じていられるのも、あとどのくらいだろう。娘も来年は六年生になる。再来年は中学生だ。中学生にもなったら、親に秘密がごまんとできる頃だろう。さて、この娘はどんな中学生になるのやら。
白んできた空。風はまだ流れ続けている。私は起き上がり、ベランダに出て髪を梳く。梳いているそばから風が髪を揺らしてゆく。髪を上げなくても、後ろ一つに結わくだけで、今日は大丈夫そうだ。
それにしても。空が澄んでいる。すかんと抜けて、水色の空がさぁっと広がっている。陽射しのことを考えなければ、実に美しい、きれいな夏空だ。街路樹がもうこの階に届くほど伸び、青々とした葉を茂らせている。その街路樹の向こう、トタン屋根がきらきら輝いている。通りにまだ人影はなく。静かな朝。
しゃがみこんで、ラヴェンダーとデージーの、絡まり合った枝を解く。デージーはこぼれんばかりに花を咲かせている。一方ラヴェンダーは、まだ花芽はなく。ちょっと寂しい。でも、ここまで伸びてきたのだもの、それだけでも十分。
パスカリはようやく花を咲かせ。ぱっと開いた花は、真っ白で。嬉しい。小さな小さな花だけれど、ようやくパスカリらしい花に出会えた気がする。今日帰ってきたら切り花にしてやろう。私は心に小さくメモをする。
友人から頂いた薔薇を挿した、その枝からは、ぐいぐい新芽が伸びており。根付いたのは二本の枝だけだけれど、これは一体どんな種類なんだろう。何色の花が咲くんだろう。頂いた花は白に赤に薄い紫色だった。どの枝が根付いたんだろう。
ベビーロマンティカは、四つの花がそろってぽっと開いてきた。今日の陽射しなら、きっとちょうどいいところまで開くだろう。帰ってきたらこれも切り花にしてやらないと。それにしても、ベビーロマンティカは、花を咲かせながら同時に新芽も出してきている。元気一杯。
ミミエデンは、ひとしきり新芽を出し終えたのか、静かになってきた。ここからどう動くんだろう。ちょっとどきどきする。さんざん苦労してここまで甦ってくれたのだから、本当に嬉しい。
ホワイトクリスマスとマリリン・モンロー。それぞれに新芽を噴き出させ。まっすぐ天を向いて伸びるその枝葉。凛々しいという言葉がとても似合う。でもちょっと、ホワイトクリスマスとマリリン・モンローの距離が、近くなりすぎている。強い風が吹いたら、枝が擦り合わさってしまうかもしれない。どうしよう。ちょっと考えないと。
アメリカンブルーはきれいな青色の花を一輪咲かせ。ふわふわと風に揺れている。この空にとても似合いな、きれいな青色。
私は部屋に戻り、お湯を沸かす。生姜茶を、濃い目に作って、珍しく氷で割る。何となく冷たいものが飲みたい。そう思った。
窓際の机に座り、お茶を飲みながら煙草に火をつける。勢いのいい風が、カーテンをふわりふわり揺らしてゆく。


この数日、頭の中でぐるぐるしていることを一生懸命整理しようとするのだが、なかなかうまくいかない。とあるサイトで論争されていた、「被害者が声を上げる」ということについて、だ。
声を上げることは、そんなにいけないことなんだろうか。上げた途端、もうその人物は差別を受けなければならないんだろうか。それが不思議でならない。
そしてまた、別のこと。加害者の弁護をする、弁護士の方法。被害者の女性の過去の男性遍歴を調べ上げ、それを出してきて、これだけふしだらなのだからと主張するその論法。私も実際それは経験した。それゆえ事件は成立しないとさえされた。その時のことを、ありありと思い出す。
事件は成立しなかった、被害はなかった、としながら、示談に持ち込み、最後の最後、十万円をこちらに差し出してきた加害者たち。これで何もなかったことに、と。あれは何だったんだろう。今考えても理解できない。本当に強姦していなかったなら、何もなかったなら、その十万円という金は何を意味するものだったんだと言いたい。
性犯罪被害について、日本で語られることは、本当に少ない。語ってはならないというような雰囲気がありありと漂っている。でも、誰かが声を上げなければ、その被害の実態は何処にも知られないまま埋もれるだけで。誰かが声を上げなければ、その被害を受けたことによって被害者が背負うことになったものの重さなど、誰にも知られぬままになるだけで。被害者はそんなに、何もかもを背負って、何もかもに押しつぶされて、生きていかなければならないというのか。
私が被害に遭った頃、産婦人科の対応もまだまだ最低だった。被害後、必死の思いで診察を受けると、いきなり、警察に連絡しますか、と医者が言った。連絡しないならこれ以上の処置はできないとさえ言った。ことを明るみに出すか、出さないかで、その後の処置が決まるのだと。そんなこと、いきなり事件直後に言われて、決められる人がいるんだろうか。私はこれでもかというほど慄いたのを、今もはっきりと覚えている。
私は二本目の煙草に火をつけながら、思う。そう考えてくると、今というのは、ずいぶん変わってきたのかもしれない、と。少なくとも、批判は浴びるけれど、それでも、被害者が声を上げられるようになってきたし、警察や病院の対応もずいぶん変化してきたという。実際付き添いで病院に行った折、その病院のスタッフは実にしっかりと被害者をサポートしてくれた。心の傷をこれ以上広げないよう、最大限の配慮をしてくれた。もちろん病院にもよるのだろうが、少なくとも、そういう病院が数えるほどでも、存在するようになった、ということ。
そう、どう批判を受けようと、差別を受けようと、私はやっぱり、声を上げてゆくことを、選ぶ人間なんだと思う。自分が上げなければ、自分の次に続く人間まで、自分と同じ悲惨な目に遭わなければならなくなる。それはいやだ。自分がされたのと同じ仕打ちを、自分と同じ境遇の人たちが受けなければならないという、その現実が、いやだ。
いつも思う。人間が人間である限り、犯罪はなくならない。きっとなくなることは、ない。それでも。犯罪で痛めつけられた人間の心を救えるのもまた、同じ人間であるということ。
さて、そろそろ朝の仕事に取り掛かろうか。私は頭を軽く振って、椅子に座り直す。

約一時間、仕事をこなし、それから娘の朝ご飯、昼ご飯を作る。ついでに洗濯も一回済ますことにする。
冷蔵庫の野菜室を漁り、茄子とピーマンを見つける。さて。これなら麻婆茄子が作れる。早速取り掛かる。ご飯は昨日のうちに炊いて、すでに小分けして冷凍してある。おかずがあれば、何とか二食済ませられるだろう。作っているとあっという間に汗をかく。でも、窓からは心地よい風が吹いてきて、私の汗を宥めてくれる。
起きたのだろう娘が、それでもごろごろ、寝床で転がっている。早く起きなさい、と声を掛けると、ママ、ミルク連れてきてぇ、とねだる。寝床にハム連れてくと、うんちするからやだ!と返事する。渋々起きてきた娘。自分でミルクを抱きかかえ、でーんと床に座っている。
ママ、ココアを診てくれた先生、すごいよね。何が? だって、ちゃんとココアの目、治しちゃったんだから。それは、あなたがちゃんと先生の言う通りに目薬を頑張ったからでしょう? いや、違う、先生がくれた薬がすごいんだ、きっと。ははは。そんなことないって。でもさ、ミルク連れてったら、絶対、デブすぎるって言われるよね。言われるかもしれないねぇ。ちょっとダイエットさせたら? ミルクにはいつも、餌少なめにやってるんだよ。そうなんだ。でも、おデブだね。ゴロも最近、体格すんごくよくなってきたよね。うん、でもゴロは、筋肉太りって感じがする。あぁ、触った感じが違うもんね。ココアだけだよ、このスリムな体型保ってるのは。ココアは好き嫌いが激しいからね、それもあるんじゃない? それに、一番回し車回してるの、ココアだし。だねー。

洗濯も終わり、食事も二食分作って、出かける支度。
じゃぁね、それじゃぁね、そっちも頑張って。ママもねー。手を振って別れる。
私はとりあえず自転車に跨り、走り出す。坂を下り、信号を渡って公園の前へ。公園に入っていくと、もうくらくらするほどの蝉の声。まさに命を燃やし尽くす勢いで、みなが啼いている。どうしてだろう、蝉の声を聴いていると、だんだん切なくなってくるのは。それは私が蝉の命の短さを思っているからなんだろうか。でも蝉にとってはそれが当たり前で。だからこそ懸命に啼いているわけで。美しい命の様なんだ、と、改めて思う。
公園を抜け出て大通りを渡り、高架下を潜って埋立地へ。銀杏並木の日陰が嬉しい。日陰を縫って走る。ちょっとズルして、赤信号も突っ走ってしまう。おまわりさん、ごめんなさい。
結局私は、私で在ることしかできない。どこまでもどこまでも、私で在ることしか、できない。そのことを、改めて思う。
さぁ、今日も一日が始まる。

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クリシュナムルティの日記やメイ・サートンの日記から深く深く影響を受けました。紆余曲折ありすぎの日々を乗り越えてくるのに、クリシュナムルティや長田弘、メイ・サートンらの言葉は私の支えでした。この日記はひたすらに世界と「私」とを見つめる眼を通して描かれています。

世界と自分とを、見つめ続けた「私」の日々綴り。陽光注ぎ溢れる日もあれば暗い部屋の隅膝を抱える日もあり。そんな日々を淡々と見つめ綴る。

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