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種の中の仏様

 教室の窓際の席、彼女は座ってた。少し茶色がかった髪の毛はいつでもつやつやしていて、眺めているといつも触ってみたい気持ちになった。鼻ぺちゃの、茶色の髪がよく映える雪のように色白の子だった。
 その彼女には妙な癖があって、午後の授業になると必ず何かを頬張っている。月曜日の国語の時間も、火曜日の数学の時間でも、水曜日の理科1の授業でも。木曜日でも金曜日でも午後の授業では必ず彼女は何かを頬張っていた。
 何を頬張っているんだろう。ずっとずっと疑問だった。
 或る日、何の縁か彼女と一緒にお弁当を食べることになった。そうして食べ終わる頃、彼女は、一度お弁当箱の隅に置いた梅干を再び箸でつまんで口の中に入れた。種を出そうという気配はない。
「梅干の種、出さないの?」
 不思議に思った私は彼女に尋ねた。
「うん、ずっと舐めてるの」
 それだけ言うと彼女は、空になったお弁当箱を畳んだ。その日彼女はいつものように午後の授業の間中ずっと口の中で転がしていた。梅干の種を。

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