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愛は深いほど壊れやすい

愛は深くて強いほど壊れやすい。
強い愛があれば壊れない、大丈夫だなんて全くウソで、現実は正反対だ。
強くて深い愛は、あまりにモロい。

あんなに愛し合ってたのになんで?とか、あっさり別れを切りだすなんて冷たい、愛が薄いと言うひともいるけれど、逆。愛が強いほど相手に尽くすし、そうすると、やりきれば未練はスッパリなくなる。たったあんなことで?と驚くひともいるけれど、深い愛を保つには無神経さはご法度だし、ケアもメンテナンスも反省もアップロードも必須なのだ。

逆に愛情が薄っぺらで上っ面であれば、相手に何ひとつ期待しないし、いくらでも仮面は続けられる。ほっておいても大丈夫な関係というのは、思い込みでありニセモノだ。
男性はステディで磐石だと思っていても、女性はとうに冷めてあきらめてるか、別れの準備をしていると思っていていい。

男女の愛でもそうだし、親子間でもそう。
朝ドラで安子が娘のるいから「I hate you」と言われたとき、彼女のなかで全てが終わって、全てを捨てて安子はアメリカに渡った。たったそんなことで?と驚くのは男性に多かった。女性はほぼ頷いていたように思う。
hateとは、強い愛を経由して、それが裏切られたと絶望したときに出てくる言葉だ。愛してなければ嫌いもしない。愛の正反対は無関心だとはよく言う。

逆に安子を幼い頃から愛していながら気持ちの捌け口に雪枝と関係していた勇も、身体と跡取りの関係と割りきれていたからこそ、雪枝が父親の葬儀前に朝ドラに興じていても、あきらめていたのだろう。雪枝の方も身体を捌け口にされておいて本物の愛を捧げ続けられるほど、女としてバカではない。雉真の正妻と財産があってこそのトントンな関係で、実際そのくらい割りきった方が平凡な人生は幸せなのかもしれない。
朝ドラ的にも、安子は勇と結婚していれば視聴者も大円団で納得して安心しただろう。

安子は割りきる結婚をするには純粋すぎた。幸せすぎた。祖父母も両親も夫も戦争で失い、兄にすら裏切られ、娘のるいが最後のドアだった。そこでhateと告げられれば、全てを捨てて日本を去るしかない。るい自身も安子を母親として愛し必要としてたからこそ、勘違いとはいえ裏切りと悲しみが自らを切り裂いてhateの言葉を口に出させたのだろう。

本当の愛って命が懸かっている。人生だって懸かっている。気晴らしや捌け口やエンターテイメントとしてするものでもない。押し殺せるものでもないし、逆に押し殺すことができたらその程度のものなのだろう。そして、別に誰しもが本当の愛を持たなくてもいい。それは誰しもがセックスをしなくてもいいのと同じくらい、愛するも愛さないも割り切って楽しく生きるもそのひとの自由なのだ。

必要な人には、愛は無ければ死んでしまうほど、命を握って左右するもの。安子は愛が無ければ生きていけない女性だったのだろう。

本物の愛とは、相手に何も求めないし、永遠だと説く人もいる。
それは理想として目指す愛だ。
肉体を持って生まれて苦しんで死んでいく私たちの生まれながらの性質ではない。
理想とはかけ離れた肉体を持っているからこそ、目指す境地なのであって、そうなるまでに私たちは身を引き裂かれるほどに、のたうちまわることになる。

ジョン・レノンも、シンシアと結婚してジュリアンをもうけながら、オノ・ヨーコと不倫の末に結ばれる。浅はかなようだけれど、ジョンがずっと必要な誰かを狂おしいほど求めていたことはファンならわかっている。でなければ、年上のバツ2の子持ちで有色人種の女なんて選ばない。アイドルの彼ならいくらでも若くて未婚の白人の少女を選べたはずだし、事実、さんざん遊んできた。彼にとって地位も名声も何よりも、誰とも取替えのきかないヨーコの愛が必要だったのだ。

20世紀始めに王位を捨てて人妻との結婚に走ったエドワード8世もそうなのだろう。相手のウォレスもまた、王位目当てで恋をしたのではないからこそ、命も王位もかけた皇太子からの愛を受け取ったからこそ、自分をあきらめるように最後まで説得した。たぶん、それだけ愛されたのなら、別れることにも見切りがつく。
そういえばヨーコさんも一度ジョンを愛人つきで追い出していた。本物の愛ならちゃんと戻ってくることがわかっていたし、戻らなければ本物でないから彼女の人生には必要ないとわかっていたのだ。

愛は尽きることがない。例えば新しい誰かを愛しても、以前の人への愛が無くなるとは限らない。母親がふたりめ、3人めの子どもを身ごもっても、最初の赤ん坊を愛し続けられるのと同じように。
それでも、愛には多大なメンテナンスがいる。嫉妬も押し寄せてくるし、期待もされる。裏切りや誤解もある。成長や時の流れに愛が変化することもある。愛は本当に厄介で残酷だ。

それでも、愛に触れる機会があったことは本当に幸せで、豊かなことだと思う。たぶんそれだけで、生まれてきた価値があったと思うほどに。そしてその想いが、人ひとりをずっと生かし続けられるほどに。

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