パン粉を賞賛する人よ
めっちゃいきなりですが、
「ネコポニー」
という言葉をみなさんはご存知でしょうか。
(知らんがな)
ネコポスではなく、ネコポニー
モノポリーではなく、ネコポニー
ミニスカポリスではなく、ネコポニー
(もはや全然ちゃうがな)
「ネコポニー」とは、芸人の千原ジュニアさんが創り出した言葉で、
『トラウマと呼ぶほど強烈ではないけれど、自分の価値観や生き方に影響を及ぼした経験』を
トラウマよりは小さい、という意味で「ネコポニー」と呼ぶのだそうな。
トラ🐅>ネコ😺 ウマ🐎>ポニー🐴
というわけですな。
私はこの言葉を初めて聞いた時、ジュニアさんの表現力に脱帽し、ネコポニーという言葉の可愛さに震えました。
トラウマではなくネコポニー
新種の馬じゃないよネコポニー
言いたいだけだよネコポニー
これからどんどんネコポニーを使っていこう!
…というわけで、自分のネコポニーについて語ってみたいと思います。
大学生の頃のこと。
私は、自分が通っている大学の学生食堂でバイトをしていました。
働いてるのも同じ大学の学生がほとんどだったので割とみんな仲良しで、しょっちゅう飲み会をし、遊びに行き、夏休みには旅行に行くほどでした。
私はその当時から草を喰むヤギのように平和な人間だったので、ほとんどの人とすぐに打ち解けたのですが、
中には、なんか苦手だな…と思う人もやっぱりいたわけで。
それがハヤノくん(仮)でした。
ハヤノくんは、すらっとした男前で、歌がとても上手で、バンドのボーカルをしていました。
そして、要領もいいから在学中にファイナンシャルプランナーの資格をとったりして、最終的には、日本でも一二を争う超高給な企業に就職するハイスペックの持ち主なのですが、
彼には、飄々として、何を考えてるかわからない所がありました。
物静かというとそうでもなく、男子とはノリノリで喋ってるのに、なぜか女子には無愛想。何か手伝ってあげてもお礼も言わない。
それでいて、パートのおばちゃんには愛想を振り撒いて、ゴリゴリに好かれていました。
なんかヤな感じやな…
それがハヤノくんの第一印象でした。
ある日のこと。
私はカウンターでご飯をよそったり、おかずを盛り付けたりするのが仕事なので、いつも厨房の外にいるのですが、その日はとても暇だったので、厨房で待機していました。
ハヤノくんは調理担当で、厨房が仕事場だから、ちょうど同じ空間に居合わせたのです。他にも数人のバイトが雑談を交わしていました。
手持ち無沙汰だったハヤノくんは、近くにあったパン粉を手ですくってはパラパラと落としていました。
その様子はまるで子どもが砂遊びをしているよう。
そして、パン粉を弄びながら、彼は嬉しそうに言ったのです。
「パン粉ってさぁ、すごいよなぁ。だって、これをつけて揚げれば、なんでもフライになっちゃうんだぜ!!!」
…ん?
…今なんと???
彼は、特にウケ狙いに走ったわけでもなく、大真面目にそう言ったのです。
あまりに当たり前のことを嬉々として訴える彼に、私はキョトンとしてしまいました。辞書に「キョトン」という項目があったら、事例として載せてもいいくらい、見事なキョトンだったと思います。
確かに、世間一般ではパン粉をまぶし揚げた
食いもんのことを「フライ」と呼びます。
だから、彼の言うようにパン粉をつけて揚げたものは、なんでもフライと呼べる…かもしれません。
例えば豆腐にパン粉をつけて揚げたら、豆腐のフライだし、消しゴムにパン粉をつけて揚げたら「これは消しゴムのフライです」と言っても差し支えはありません。食べるかは別として。
でも、だからって、
なんで、そんなことに、この人は感動しているんだ!?!?
全力でツッコミたかったけれど、やっぱり何も言えませんでした。
けれど、そこから彼の印象が180度変わったのです。
ハヤノくんは嫌なやつなんかじゃない。
ただ、ものすごい天然で一風変わった価値観をお持ちなだけなのだ。少なくとも、パン粉を賞賛する人間に悪いやつはいないだろう…私はそう結論付けました。
その一件があって、少しずつハヤノくんと会話できるようになりました。無愛想だったのも、単にシャイなだけだったのです。
今思えば、彼が優秀で、めちゃくちゃ高給の一流企業に勤めることになるのも、なんか納得してしまいます。
すごい人というのは、当たり前を疑い、
常識に囚われないものだから。
だから、パン粉のことを心から「すごい」と言えるのでしょう。
で、気付きました。
私が何かにつけてフライを作ってしまうのは、この一件がネコポニーになっているからかもしれないと。
だって、フライ、揚げすぎでしょ。笑
無意識のうちに、彼の言葉は私のネコポニー《トラウマほどではないが、生き方に影響を及ぼした経験》になっていたんだなぁ…
そして、今日もフライを揚げるたびに私は思うのです。
パン粉ってすごい!
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