見出し画像

おにっこちゃん

1歳10ヶ月の子どもが、背後でなにか同じことを言い続けている。本を読んでいた私は、話半分で適当に流していたが、あまりにしつこくリピートしているので、集中して子どものことばに耳を傾ける。すると、聞こえてきたのは、「おにっこちゃん、どこいった?」。おにっこちゃんて、なんだ?

おにっこちゃん、おにっこちゃん……自分も一緒に呟いてみて、もしやと思い、「お人形さん、どこいった?(のこと?)」と聞いてみると、「おにっこちゃん、どこいった?」と続ける。そうかそうか、お人形さんか。

さっきまで、ピーターラビットの絵本を読んでいた。その流れで、最近人からいただいたピーターラビットに出てくるアヒルちゃんのお人形さんを探しているのか?しかし、アヒルちゃんを探すが見つからない。適当にそこにあったトトロの人形を、「はい、お人形さん」と渡してみるが、口を強く結んでキッと睨んで軽く一蹴される。違うもので気をそらす子供騙しが、最近通じなくなってきた。仕方がないので、一緒にアヒルのおにっこちゃんを探す。おにっこちゃん、おにっこちゃんと一緒に鼻唄を歌いながら。

最近、子どもが紡ぎ出す謎の単語に出会すことが多くなった。先日は、「フォン」「フォーーーンーーー」と怒っているのに、一緒に「フォン?」「フォンフォンフォン……」とつぶやいているうちに、「あ、本のこと?」と気づき、本を渡すとニッコリ笑顔で「フォン!」と返された。言われたことばを頭で反芻していても、なかなか答えにたどり着けないが、一緒に声にだして何度も何度も繰り返しているうちに、「あ、もしかしてこれ?」とひらめくことが多い。これは、ある意味、ブレイディみかこさん風に言えば「他者の靴を履いている」のかもしれない。高見の見物で見ていると気づけない、一緒にわからなさを共感することで、ふと、子どもの言いたい何かにたどり着ける(こともある)。

それにしても、「おにっこちゃん」は愉快だ。
夫の勤務先の近くにある「おにっこランド」という古びたテーマパークの色あせた鬼が頭に浮かぶ。先入観を持たない子どもの生み出す音のことば。特に無意味ことばは、すぐメモしないと忘れてしまうので、丁寧に拾い上げていきたい。(1歳10ヶ月)

この記事が参加している募集