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シチリアは茄子料理王国だ!

茄子は野菜の中でも特に好きです。茄子の旬は夏なのか、秋なのか、迷うところですが、夏野菜に区分されても「秋茄子は嫁に喰わすな」という諺もあり、秋も美味しいですね。

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さて、この茄子ですが、日本では奈良時代に中国経由で入って来て、原産国はインドだと言われています。ちなみに、茄子の生産国は圧倒的に中国が1位で2位はインド、このふたつの国だけで世界の茄子の85%を締めているのです。そのあとの順位は、イラン、エジプト、トルコ、イラクと中近東が続き、8位に日本、9位にイタリアです(野菜情報サイト「野菜ナビ」より)。日本の茄子も生産ランキングでTOP10に入っていますが、今回はイタリアの茄子の話です。茄子は、中近東経由で地中海に伝播してアラブ料理の影響を受け、イタリアのどこの地域よりもシチリアでは茄子がふんだんに使われるのです。

イタリア料理では茄子を沢山使いますが、その中でも一番有名な茄子料理がシチリアにあります。そのひとつはカターニャ名物“Pasta alla Norma (ノルマ風パスタ)”で、まさに茄子が主人公のパスタです。このノルマ風というのは、地元出身の作曲家ヴィンチェンツォ・ベッリーニの名作オペラ『ノルマ (Norma)』に由来し、世界中にその名を知られるようになりました。このパスタの名付け親は、同じくカターニア出身の映画監督で喜劇作家のニーノ・マルトーリオ(1870-1921)。このパスタを食べている時に「まさにこのパスタはノルマだ!」と言い、それがそのまま料理名になったそうです。

今から20年ほど前に『リストランテの夜(シェフとギャルソン、リストランテの夜(原題:Big Night))』という映画がありました。50年代、アメリカはニュージャージーの小さな港町。本格的なリストランテ「パラダイス」を経営するのはイタリア移民兄弟で、本格的過ぎてあまり地元の人には受けず、レストランの起死回生のために人々を呼んで一夜の響宴を開くという話なのですが、この映画を通じてはじめて知った料理が出てくるのです。イタリア料理好きな方でも中々食べる機会がない料理だと思います。その料理は“Timpano (ティンパーノ) ”。ティンパーノは、様々な食材をパスタ生地で包んで、それを大きな型にいれて焼くというイタリアの郷土料理で、その形から楽器のティンパニーの名前がついて、イタリアでは“Timballo (ティンバッロ)”と呼ばれています。残り物の食材を詰め込んだり、逆に豪華な食材を入れたり、特別な日のための手間のかかる料理です。映画では表面をパイ生地で包むのですが、これがシチリアだと茄子で包む料理になるのです。型に炒ったパン粉(mollica (モッリーカ))をまぶして、薄く切った素揚げナスを全体に敷き、ここに茹でたパスタや豚のラグーソース、茹卵、サラミなどにパルミジャーノ・レッジャーノとカチョカヴァッロのチーズなどを加えて層を作り、最後にまたナスの素揚げで覆って、オーブンで焼き上げます。これを冷ましてから、切り分けて食べるのです。先日、日本のシチリア料理の第一人者として知られる『トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ』の石川勉シェフの料理本の撮影で、試食させていただきました。ナスの表面のカリカリしたモッリーカが香ばしく、フォークで中身を出しながら食べるのですが、何となく宝物探しのように楽しい。イタリア料理の中で一度は食べてみたいと思っていましたが、映画「リストランテの夜」から20年の歳月を経て、その願いが叶った日でした。「ティンバッロ」は難しいですが、パスタのノルマ風ならご自宅でも簡単に出来るので、一度試してみてはいかがでしょうか。

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(2018.8.25公開)

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