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イヤホンのない時代に思いを馳せる

この前、イヤホンを失くしてしまい、音声配信や音楽を全く聴かない日々を過ごしていました。出張先だったこともあり、自分がアクセスしたい音声から一週間ほど強制的に遮断されていたことになります。

こうして一度、音声配信や音楽と距離を置くことで、イヤホンがなかった時代に思いを馳せることとなりました。正確にはイヤホンやヘッドホンではなく、ウォークマンが販売される前の時代です。

ウォークマンはソニーが1979年に販売し、世界中で大ヒットした製品です。これにより「音楽を携帯し気軽に楽しむ」という新しい文化が創造されることとなります。

それまでは、音楽は自宅で聞くか、お店まで聞きに行くのが当たり前の時代でした。

ライブハウス、コンサートホール、喫茶店、居酒屋など、音楽が流れる「空間」がどこかに存在し、そこに聞き手が赴く、というのが従来の音楽の聴き方だったところを、ウォークマンの登場によって個人がどこでも音楽を聴けるようになったのです。

これにより、ジョギング中に自分のテンションを高める音楽を聴くこともできれば、海辺でリラックスした音楽を聴くこともできます。ウォークマンの登場によって切り拓かれた新しい文化は発展を続け、今では様々な場面で音楽や音声配信が聞かれています。

しかし、今回イヤホンを失くし、すぐに自分が聞きたい音楽にアクセスできない状況に陥ったことで、ウォークマンの登場以前の音楽の楽しみ方も、それはそれで楽しそうだと思ってしまいました。

ここからはあくまでも妄想ですが、音楽が流れる「空間」にわざわざ足を運ばなければいけない事情から、友人に「一緒に音楽聞きに行こうぜ」と声を掛けることで交流が生まれていたはずです。

音楽好きで身を寄せて集まり、お気に入りのレコードを持ち寄って「ここのギターが良いよね」とか「ここのドラムのハイハットが巧みだね」とか、そんな議論が各地で繰り広げられていたはずです。

今の様にコンテンツがあり過ぎて消費しきれない現状を鑑みると、音楽にアクセスがしづらかった事実は、それはそれで貴重な体験だったのかもしれません。

現代の音楽市場は供給過多なうえに消費者は容易にコンテンツにアクセスができます。

聞き手がひとつひとつのコンテンツに対して感じる価値が薄まっていても不思議ではありません。

いつでも無料で音楽にアクセスできる利便性と引き換えに、私たちはかつての貴重な音楽の楽しみ方を手放しているのかもしれない。

もしかしたらウォークマン登場以前の、わざわざ空間に足を運ぶモデルの方が、音楽に幸せを感じた人が多かったのではないか。

イヤホンを失くして不便に思いながら、少しだけそんなことを思ったところです。

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