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小さい本屋とペライチ資料作成|制約が生むクリエイティブ

書店でアルバイトをしていた経験があるので、今でも日常的に書店に足を運んでいます。読書が好きで、未だに紙媒体で読んでいるような人は、僕と同じで本屋さん巡りが習慣になっているのではないでしょうか。

本が好きな人の多くは、大型書店を好む傾向があります。大量の蔵書に囲まれると、大好きな本に囲まれて本を読みたい欲求が刺激されます。

僕も大型書店に行くとテンションが上がりますが、一方で街の小さな本屋さんにも、大型書店にはない別の魅力があると思います。

僕がアルバイトをしていた書店は地域密着の書店チェーンで、ひとつの主要な駅に5店舗を展開していました。勤めていた2年間のうち、1年は大型の店舗でもう1年は最も小さな店舗を担当したので、大型書店と小さな本屋さんの両方を経験することができたのです。

大型書店では広いスペースが活用できることから、様々な本を大胆に展開してお客さんにアプローチすることができます。一方で、小さい店舗には限られたスペースと在庫しかないので、どの本をどの様に展開するべきか、しっかりと取捨選択してアプローチする必要がありました。

今では消費者として書店に足を運びますが、こういった経験を経ていることもあり、小さな本屋さんを訪れると限られたスペースをどの様に活用しているのかが、どうしても気になってしまいます。

おすすめのコーナーに特定の作家のコーナーが設けられていたり、海外文学の在庫がやたらに豊富だったり、その書店の店長および棚の担当者の売り出し方や好みが反映されているのが想像できるのです。

それを見て「この棚の担当者は結構マニアックだな」とか「この書店の店長の思想はリベラルなんだな」とか、そんなことを勝手に楽しんでいます。

大型書店の場合はスペースが広く在庫も多いので、その様な傾向は小さな本屋ほど顕著に現れません。

これは、店舗のサイズが大きいことや在庫が多いことで店長や担当者の趣向が見えにくくなっているのではなく、本の展開を考えるときに情報を取捨選択しなくてはならない、制約があるその環境に秘密があるのだと思います。

小さな本屋では、どうしても販売する本の種類を削減する必要があります。スペースが少ないため本当に売り出したいものしか陳列しないようになるのです。

こういった制約があることで、売り出す側は「本当に売り出したいもの」を必死になって考えることになります。「もしかしたら売れるかもしれないから念のため発注しよう」という発想を持つことはできません。

僕も小さい店舗で働いていた時の方が頭を悩ませて意思決定をしていた実感があります。余剰分があると、人はそれに甘えて考える努力を怠ってしまうものなのです。

日本を代表する大企業であるトヨタは、企画書を作成するときにA4用紙1枚で執筆する「ペライチ資料作成」という方針をとっているそうです。

これも情報量をあえて制限することで、書き手が必死になって企画を考えることに繋がります。企画を提出された側も、多忙ななか分量の多い資料を読み込む必要がなくなるため、全体としても理にかなった施策だと思います。

商品や情報が大量にあることで安心する気持ちはわかりますが、限られた環境下のほうが人の思考は研ぎ澄まされる傾向があります。

毎日の仕事や日常生活でも、何かが不足していた時はその不足を嘆くのではなく、一度その環境下で何ができるかを考えてみると発見があるかもしれません。

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