名刺で仕事をするな|会社と肩書と社員
何かの本で読んだビジネスの名言に「名刺で仕事をするな」というものがありました。
若手社員の頃に顧客を含めた社外の人が自分を信頼してくれているのは、自分の個人の力ではなく、その会社の肩書や信用によって信頼してくれているだけだというもので、決して自分の力で成し遂げていると勘違いせず、自分自身で信頼を築けるようになろう、といった意味合いです。
あとから調べてみたところ、週刊朝日の編集長だった扇谷正造という方が「諸君! 名刺で仕事をするな」というタイトルで出している本が元ネタだったようです。
この言葉は会社員として働いたことがあり、社外の人と接する機会がある人ならば誰もが気づきを得られる言葉だと思います。自分が外部の人と接する時に丁寧に対応された場合、それは自分ではなく会社に対して丁寧に接してくれているに過ぎません。
とはいえ、僕は歴史が浅くまだ知名度の少ない会社で働いているので、名刺に頼ってしまう意識がそもそもそんなに大きくはありません。
この名言が最近になって役に立ったのは、自分を戒めるためではなく他の人を見分ける時のことです。
僕が勤めている会社は創立10年を少し過ぎたところで、現在は拡大を目指している時期にあります。そのため、外部から経験豊富な社員を呼び込んで人員を整備しているフェーズにあるのです。
そうすると、過去に大手企業で事業部長を勤めていた経歴の人が突然上司になったり、他の事業所の部長が元外資系ECサイトの執行役員だった人になったり、急に有名企業の名前が飛び交うことになります。
新しい上司や部長を紹介されるときには「○○さんはもともと△△で部長を務めていた人で」といった具合に紹介され、私たちのような小さくて無名の会社でコツコツ働いていた身からすると、黒船が来襲したようなざわつきがもたらされることになります。
こういった有名企業の名前を冠した紹介をされたときに、その人のことを信用することができるかと言うと微妙なところです。どちらかと言うと、紹介の仕方を信用していないといった方が正しいかもしれません。
過去にIT企業でプログラマーとして働いていた時のことです。いわゆる下請け企業だったので他社の社員たちとプロジェクトを組み、行政や大手企業から依頼される要件に応えるかたちでシステム開発を続けていく仕事をしていました。
そのプロジェクトには優秀な人たちも多く、たくさんの刺激と学びを得ることができましたが、要件を依頼してくる大手企業の社員たちが優秀だったかどうかと言うと「人による」といった印象でした。
週末金曜日の退社寸前に翌週月曜日午前中の会議用資料作成を依頼してきたり、飲み会で今の社会ではハラスメントと呼ばれるような行いをしてくる人もたくさんいました。
名刺で仕事をしてしまっている人たちを実際に見てきているのです。
そのため、今の会社に有名企業の肩書をもって入社してきた人に対して、名刺ではその人を判断せずに、しっかりコミュニケーションを取って判断するようにしています。仕事への価値観はどうか、今の会社のことをどう見ているか、対話をすることでその人の本当の魅力が見えてきます。
幸い、僕の直属の上司となった元大手企業の事業部長は、顧客への価値を追求することに心血を注いでくれる信用に値する人のようです。
人生において、消費者として生きていくうえでも同様のスタンスで人と会うべきです。
何かのセミナーに参加する時の講師は経歴ではなく、人としての魅力やビジョンをしっかり持っているか。診察や手術をしてくれる医師は、病院や資格の肩書だけではなく、本当に患者のことを思ってくれているか。
名刺ではなく対話を通してその人の魅力を見つけていきたいと思います。
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