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システムよりも文化|ウォルマートに学ぶ説明の意義

組織の中で仕事をしていると、会社は顧客や社員のために最善の判断をしているにも関わらず、現場の社員がその判断に納得ができず行動変容にまでは繋がっていないということが多いように思います。

これは上層部と現場がコミュニケーションをしっかり取れていないことにも原因がありますが、会社の規模が大きくそして複雑になってきた場合はそもそもコミュニケーションをしっかりとること自体が実現できないケースが大半です。

そのためコミュニケーションを密に取れない環境においても、現場の社員には正しく行動をしてもらう必要があります。

それでも社員は人間なので全員が納得して正しい行動をするのは、どうしても実現しきれないことがあります。組織の意思決定に納得して行動するというのは結構難しいもので、何かと歪みが生じてしまうものです。

こういう時には、システムを導入することで、機械的に社員の誤った行動を制御することができるようになります。仕組み化、業務標準化など、呼び方は様々です。

しかし、大きなシステムを導入する時などは、現場から大きな不満が寄せられることがあります。変化を嫌う人も一定数いるものなのです。

システムで制御できないとなれば、どうすればいいのか。そのためには、組織が醸成することになる「文化」が重要です。

今回はアメリカのスーパーマーケット「ウォルマート」からそのヒントを探ります。


現状維持バイアスと会社への不満

例えばペーパーレスを実現するために新規社内システム導入する時にも、アナログゆえに便利で素早い作業ができた成功体験持っていた社員は、デジタルのネガティブな側面ばかりに焦点が当たってしまい「通信が遅く却って不便になる」とか「情報が一括で漏洩してしまうリスクがあるので却って顧客を不安にさせる」とか、そういった意見がたくさん出てきてしまうものです。

これらの意見は一理はあるかもしれませんが、現状維持をしたいバイアスに引っ張られての発言であったり、会社に対する不満の裏返しだったりすることが大半です。

つまり、これらはそういった気持ちを抱いた社員にも有無を言わせないよう、快適な通信環境で情報漏洩リスクもない、快適なシステム環境を導入することができれば、一気にこれらを解決することができるはずなのです。

しかし、完璧なシステムというものはなかなか実現することは難しいもので、様々な社員の思惑が入り乱れている以上、こういった反対意見をシステムだけで解決するのにはどうしても限界があります。

そのため、やはり必要になってくるのが企業の文化の定着であり、その文化を定着させるための説明が大切になります。

行動変容を促すためには納得のいく説明が必要になります。どういった説明がされれば現場の社員ひとりひとりにも行動変容を促すことができるのか。

例えば、現場の社員が抱く不満のひとつに「経費削減」があるかと思います。自らの給与に関わる人件費も含め、これらを削減されてしまう時には「金儲けのためにケチケチしやがって」といった妄想を抱く気持ちは非常によくわかります。

これに対して、過去に読んだビジネス書のなかで最も納得がいく説明をしている経営者がいました。ウォルマートの創業者であるサム・ウォルトンです。

ウォルマートが経費節約を執拗に行う理由

サム・ウォルトンが創業したウォルマートは、アメリカに本部を置く世界最大のスーパーマーケットチェーンであり、売上額は世界最大の企業です。日本のスーパーマーケット西友もウォルマートの子会社です。

マイクロソフトやGAFAの様なIT企業がここまで巨大になる以前は、世界長者番付の常連と言えばウォルトン一族でした。現在も一族5名の総資産額はビル・ゲイツを超えています。

そんなウォルマートは「Everyday Low Price」を掲げ、徹底的な顧客至上主義と経費削減にこだわっています。

商品の仕入れにおいても、業者との交渉では一切の妥協を許さない姿勢で他社の追随を許さず、業務における従業員の経費削減には執拗なほど口酸っぱく言われる社風が創業時から受け継がれているそうです。

そんな社風で働くのは窮屈でしんどそうだなと思っていたのですが、サム・ウォルトンの自伝『私のウォルマート商法』を読むと、その説明に納得することができました。ここには経費節約を説くためのシンプルで深い哲学が語られています。

ウォルマートが年商500億ドルを超える会社に成長したのに、なぜ今でもそんなにケチケチするのか、と尋ねられることがある。理由は簡単だ。1ドルの価値をよく知っているからである。私たちの使命はお客に価値を提供することだが、その価値には品質やサービスばかりでなく、お客の支出を節約することも含まれる。ウォルマートが1ドルを浪費すれば、それはお客の懐に直接響くのである。

『私のウォルマート商法』サム・ウォルトン 講談社+α文庫 p.44

システムの制御よりも文化の定着

社員が「顧客至上主義」という理念に共感して入社しているのであれば、この説明を聞くことで経費節約に対して納得することができるはずです。

「金儲けのためにケチケチしやがって」と会社に不満を抱きながら経費節約をするよりも「自分が節約することがお客さんの節約につながる」と思って経費節約する方が良いに決まっています。

ウォルマートは現在においても成長を続けている世界的な大企業で、これからも人々にとってなくてはならない存在であり続けるように思えます。

システムを駆使した巨大企業であるGAFAMも、振り返ってみると、まだそれほど長い歴史を生き残ったわけではありません。

遠い将来は、もしかしたらシステムを駆使した企業を、文化が定着した企業が再び追い抜く日が来るかもしれません。

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