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永く続けるという価値

 京都河原町の大きな橋の傍でどっしりとした佇まいを魅せるレトロビル。そのビルは丸々老舗の中華料理店が使用している。ランドマーク的なレストランで食事をするなど滅多に無い洋三が、京都在住の旧友との遊興の場所にそこを選んだのは、そんな超一等地と言える場所で、テラス席で優雅に食事するという、嘘の様なシチュエーションを愉しむ自分に、ある種の被虐的な悦びを感じていたからだ。
 意外とこういう解り易いとこで食べへんもんやねんと、地元の友人は語る。特に京都という土地柄は、その世界有数のブランド都市としての矜持からか、百年程度では老舗とは言わないらしい。せやからな俺なんかはな、「まだまだひよこの卵扱いやわ。」友人は新進気鋭のブランドオーナーとして確実に成長企業の仲間入りを果たしているのにも関わらず、謙虚さをため息交じりで吐露した。自身も京都人であり、強い誇りを持っている。そして同時に少し疎ましくも感じている。歴史と共生するという事は、長い行列に並ばされてやっと買えるものらしい。品切れで無ければだが。


〈掲載…2019年7月15日 週刊粧業〉

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