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南河内の帝王

 男性ホルモンの値が異様に高い男が目の前にいた。声が大きくて、人懐っこくて、野心家で、いつもギラギラの猛禽類の様な眼をしたその男は、常に大きな鞄を書類やら資料で一杯にして、暑い話を機関銃の如くばら撒く。
 熱いのではない暑いのだ。洋三みたく秋の終わりの様な男には、盆地の真夏にバーベキューをする如く身の置き場がない。しかしこの旧知の男には悪意はない。
 唯、ひたすらに恩返しがしたいんやと言うのである。彼と初めて会った時、満面の笑みの中に、野生の肉食獣の様な油断の無さを感じていた。自分に酔うような自尊心と、それと共存する素直な崇敬の念に満ちている、不思議な人格の持ち主。単純でいて複雑な思考。常に好奇心を持ち、それでいて行動は慎重、判り易いのに、解り難い男。今彼は、永らく務めた出版社を円満退職し、出版プロモーターとして新しい門出に起とうとしている。本を誰も読まなくなっているこの時が一番のチャンスやと彼は囁く。洋三はそんな破天荒な彼に突破口を感じた。


〈掲載…2018年11月26日 週刊粧業〉

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