翼が生えた日(前編)
目が覚めると、背中から翼が生えていた。大天使ミカエルの如き翼は、一度の羽ばたきで洋三の質量を持ち上げることなど造作なく、重力を見下す程の浮揚力は洋三を虜にした。
夢中になって天翔る洋三が地表を観た時から、ちゃちなジオラマの唯一点に、自身が虫けらの如く、張り付いていた事実を認めようとしない自尊心を抑えきれなくなっていた。
しかし神の視点を得た傲慢のなせる業か、洋三自身にも気付かない間に、みるみる翼は無残に溶けていく。重力に逆らえなくなったミカエルはイカロスに代わり、空気に摩擦を感じるまでの落下速度に抗えなくなったのと、洋三が浅はかな己の傲慢さを呪いだすのはほぼ同時だった。そしてその思考より———早く———地面が———近づ———
〈掲載…2009年 製品[エル]の配布用サンプル第1弾 袋〉
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