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道案内


老女に道を聞かれた。この国道を直進し、十字路を右に…と教えた。あなたぐらいの孫が事故で死んで、花を供えてやりたくて、と老女は言った。その事故は知っていた。事故ではなく、歩道橋から走行車に向かって飛び降りた、自殺だとニュースでは見た。老女が私の教えたほうへ歩いて行った。なぜ、私の言葉を信じるのだろう、と思った。気まぐれの嘘かもしれないというのに。しかし老女の言葉も嘘かもしれなかった。死者と彼女とは、なんの関係もないかもしれない。
花屋に立ち寄った。私も弔いたいと思った。花屋の入口の自動ドアが開かなかった。定休日という札が下がっている。花を買わず、帰宅した。


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