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選挙のたびわたしの思い出すこと


選挙のたび思い出すこと。

とある選挙があった日の夕方。出先から帰宅すると、一人きりで酒を飲む父の姿があった。
家が静かだった。外で大雨の降る音が薄く響いていた。
母と弟と祖父がいない。連れ立って投票に行ったのだと父が言った。
「お前は行ったんか」と聞かれた。
「いや、行かん」
「そうか。非国民は俺とお前だけやな」
父はそう言って、豪快に笑った。
その、低い笑い声と、グラスを傾ける大きな体が、なぜかとても格好良く見えた。

まだ中学生だった、夏。
夏休みだったのか、休日だったのか、とにかく真昼間に、地元の駄菓子屋で駄弁っていた。
売り物を陳列した薄暗い土間のテレビを、居間で寝転んでアイスを舐めながら、店主のおばあちゃんと眺めた。外では蝉が鳴きしきり、狭い道路が陽に白んでいた。
国会中継が流れていた。たくさんの議員たちが拍手をし、新しい首相に選ばれた野田佳彦が四方に頭を下げていた。
おばあちゃんも拍手をして、言った。
「こういう恰幅のええ人がやってくれたら安心や」
たしか、東日本大震災のあった年だった。
その時の俺は、おばあちゃんの政治家への判断基準を、いいなあ、と思った。
なんとなく、そう思った。


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