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タトゥー


初めてのタトゥーを彫りに出かけた彼女は、その帰り道に車に撥ねられて死んだ。通夜も葬式も参列を許されなかった。家を追い出された彼女が私のところに転がり込んだのは彼女の両親も知っていたし、勘当の原因に私は無縁ではない。私と彼女とはただの友人ではなかったことを打ち明けようかとさえ迷った。しかし彼女が秘していたことを私が明かすわけにはいかなかった。
後日、彼女の妹から電話で、事故で逝ったのに静かな表情をしていたことなどを伝え聞いた。タトゥーは見ていないらしかった。そもそも彫ったことを知らないのだから、気付かなかったそうだ。彼女は、見てからのお楽しみと言って、どんなものを彫るのか私にも教えなかった。


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