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メガハイ

インスタを覗くと、結婚報告や出産報告の投稿が増えて来た。
婚姻届を二人で掲げた写真。
二年前見せてもらった人と違う気がする。あの人とは別れたのか。順調そうに見えてたけど、籍入れるまで何が起こるかわからないってのは本当なんだな。
あ、この子二人目出産したんだ。凄いな、どんどん人生進めちゃって。


社会人5年目になったけど私は何も変わらない。また今日も、あの人を待つだけ。でも、今日こそ言う。この曖昧な関係を終わらすために。


「ごめん、遅くなった。」
「うん、だから先始めちゃったよ。」
「いやぁ、退勤前になるとポンポンとやらなきゃいけない事出てくるよな。」
「仕事あるあるだね。」
彼はハイボールで、と店員さんに声をかけ胸ポケットから煙草を取り出した。煙草を口に咥えながらスーツやら鞄やらをがさごそし始めたので、私は自分のライターを渡す。
「はい。」
「おお、さんきゅ。」
右を向き少し伏し目がちにふぅーと一息吐き出す。



あぁー!もう、かっこいい。会うといつもこうだ。LINEにすれば良かった。

「今日なに?何かあった?」
と彼がこちらも見ずにまた煙草を口に持って行く。
「え?なんで?」
「珍しいじゃん。そっちから飲みに行こって誘うの。」
「まあ、ちょっと言いたい事あって。」
「え!なになに??」
彼がニヤニヤして言う。

「別に大したことじゃないけど、もうちょい暖まってきたら言うわ。」
「えー、何だろ。彼氏できたとか?」
「できてない!」
「なんだよー。いいのかよー彼氏作らなくてー。」
「いや、欲しいけどね。」
「すぐ出来るだろ。美人だし気配りできるし。」
ねえ、やめてよ、照れるんだから。

「てかさ、本気で欲しいと思ってないんでしょ。」
違う。欲しいよ。ほんとはあなたが。
「そんな事ないよ。周り結婚し始めて焦ってる。」
「うわー。わかる。地元帰ると結婚どころか皆子どもいるんだよな。しかも二人。」
そうなの。良かった。この人も私と同じ状況で同じ気持ちを抱くんだ。

「まあ、あれだな、一人で生きていけそうな感じするもんな。だから男はビビってんのかもね。」
「うわ。そんなんで私の魅力に気づけないとか皆勿体ないねー。」
ねー!と言い合って二人でケタケタ笑う。私たち、良い感じだよ。
「でも彼氏できたらさ、こうやって二人で飲みに行ったりとかできなくなるのかな。それは寂しいかも。」
はぁ、そういうとこ。
そういう思わせぶりな事言わないでよ。
そういう事言っても、自分は彼女と別れないくせに。

メガハイでーす、と店員さんが大きなジョッキを持ってきた。俺メガハイにしたっけ?ま、いっか、と彼が呟く。

「かんぱーい。」
このジョッキが飲み終わる頃に言おう。絶対に。


もう会うの辞めよって。



初めて会った時、めちゃくちゃかっこ良いって思ったよ。
今まで全然聴いて来なかったのに、あなたが好きだからミスチルのプレイリスト作っちゃったよ。
ハイボールとか飲めなかったけど、一緒のが飲みたくていつも頼んでたよ。
喫煙所で初めてキスしてくれた時の味が忘れられなくて、私もハイライト吸い始めちゃったよ。
彼女いるってわかってても、一緒に夜を過ごしてくれるから何度も会いに来ちゃったよ。

出会ったのが23歳の時。
私さ、もう27歳になっちゃったんだよ。

だから、今日で最後にする。


「俺もさ、言わなきゃいけないことあって。」
「うん。」


「結婚するんだよね。今の彼女と。」
「うん。え?」
え?


「おめでとう…。」
え?
「あざす。今日は奢ります。」
「いやいや、お祝いしなきゃだから私が奢るよ。」
え?え?

え?



え?



「じゃあ。もう会うのやめなきゃね。」
「なんで?」と彼が何も理解してなさそうな顔で尋ねる。
「不倫は御免だもん。」


なんか、なんか。


思ってたのとちがうなぁ。







そのあとは、ずっとウーロン茶を飲んだ。
食事も全く味がしなかった。やきとり、大好きなのに。
どんな会話をしたかも覚えてない。
店を出て「このあとどうする?もう一軒行く?」と聞かれたけど、調子が悪いと言って帰った。



正直何も覚えていない。あのあと、どんな会話をしたか。アルコールを全然摂取していないのに、どうやって家に帰ったのかさえ覚えてない。シャワーは浴びたんだっけ。


一つ覚えているのは、あの人と飲んで終電を逃さなかったのは4年ぶりだということだけ。


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