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月夜に誓う男のうた 『shining』

2021年3月27日の今日、宮本浩次の最新曲『shining』がリリースされた。これまでは2020年11月18日に発売されたカバーアルバム『ROMANCE』を中心にプロモーションしていたため作詞・作曲:宮本浩次の新曲は2020年9月16日に発売された『P.S I love you』以来半年ぶりの事である。本来であるならば『shining』が主題歌を務めたドラマ『桶狭間~織田信長 覇王の誕生~』は去年の6月ごろ放送予定であったのでリリース時期としては同時期である。同時期であるからこそ『P.S  I love you』そして『shining』から発せられた宮本の表現はこれ以後の宮本の足跡を追うために重要な意味を持つのである。
以前書いた『P.S I love you』の記事は下記のリンクからどうぞ。

『shining』の簡単な感想としては宮本は更に歩調を早め遠くに行くつもりである様に感じた。曲調はもちろんの事、歌詞、そして歌い方までも今までとは違う、ある種の宣言の様に受け取った。宮本のソロ開始以後ここまでエレカシとは違う楽曲を創る事はこの『shining』が初めてである。歌謡曲に挑戦した『冬の花』が些か近いがそれでもエレカシで『ヒトコイシクテアイヲモトメテ』という非常に歌謡曲に近い楽曲を制作しているのである。この楽曲は宮本が全く未知なる領域に達する前夜の如き印象を受けた。

楽曲の開始はノイズミュージックの様な轟音ギターから始まる。まるで銀杏BOYZの楽曲に似ている。然し開始直後にフラメンコギターが奏でられる。これは今までの30余年以上の歴史があるエレカシを含めても全く予期せぬ展開である。『平成理想主義』開始直後こそ僅かに似ているが全容は完全なるロックソングである。フラメンコギターを用いた楽曲というのは他の楽曲に類を見ない新境地である。
歌い始めた直後から複雑なメロディである。2回同様のメロデーが繰り返されるのにも関わらず一度目の「俺は今日も夢追いかける」と二度目の「そうさ俺は旅人さ」という歌唱が異なる。そして歌詞の面では矢張り"amore"という言葉に目を引かれる。今まで意図してかせずか『P.S I love you』までloveという語を用いなかった男が"amore"を用いるのは衝撃的である。
メロディの複雑さは全体に及ぶ。大サビ以外に単純な音階のメロディがないのである。(例えば一番の大サビ「ああ風が吹いてる荒野に舞う男の夢」であれば階段上に上がり下がるという単純なメロディーである。)
この楽曲のうち最も宮本自身の心境の変化を垣間見ることのできる歌詞は二番のAメロ

言葉にすれば嘘になる

である。私は何度も歌詞を確認したが矢張り上記の通り書いてあった。振り返ってみれば宮本が歌詞を書く際に表現を放棄したことはなかった。『遁生』の詞を作る際には古今東西の哲学書を大量に読みまくったし『歴史』創る際も「男の生涯」を描くはずであったがそれが叶わず自分の中で今日生がある森鴎外についての歌詞を創った。そんな何よりも言葉を重んじていた男が「言葉にすれば嘘になる」と言葉による表現である歌詞を創る事を放棄しているのである。私は別に宮本浩次自信を非難している訳ではない。表現を放棄する表現というのは宮本の楽曲にとって全く新しい表現方法である。先に『shining』は全く未知なる領域に宮本が踏み込もうとしている意思を感ずると書いた。畢竟するにそれは上記の歌詞とその次の歌詞

我が心に新たな旅立ちの予感

という歌詞に顕在している。エレカシの楽曲でも"旅立ち"という語はキーワードとして用いられたが"新たな旅立ち"は今度で初めてである。然もその後に"予感"という語も含まれているとなるといよいよ未知なる領域に踏み出そうとしているという事がわかるであろう。
サウンド面で私は従来の宮本の楽曲と全く違うと言った。然しフラメンコをやるのに何ら違和感がないのは宮本が持つ情熱性とフラメンコが持つ情熱性が自然に溶け合い異を唱えさせない程の説得力が楽曲に内在しているからだろう。では果たして何故に全く新しい音楽にすんなり手を出せたのか。その様になれたのはこの楽曲の生成過程がスカパラとの『明日以外全て燃やせ』、椎名林檎の『獣ゆく細道』の後であるからではないだらうか。上記に曲を踏まえて楽曲を聴くと楽曲自体が持つ情熱は(そしてアルバムのジャケットも)『明日以外全て燃やせ』、歌唱部分の複雑さは椎名林檎の『獣ゆく細道』からの影響が色濃く反映している様に思える。宮本の言葉を借用するのであれば「稽古をつけてもら」ったからこそバンドでは見えなかった新たなる地平を目撃しそれを開拓しようとしているのではないだろうか。

本来であるならばこの楽曲は昨年リリースされる予定であったのは先に言った通りである。故にこの楽曲と現在の宮本の思想には約半年以上の隔たりがあるため当然のことながら両者の間にはズレが生じている。女性歌手の楽曲をカバーした『ROMANCE』を経た宮本浩次が現在、如何なる楽曲を制作し如何なる地平に立っているのか。宮本浩次の本当の意味での完全新作を嬉々として待つ次第である。

3月27日 武蔵 山水



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