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永井荷風と共に歩く

年始に私は所謂、ネット上の密林を徒然と徘徊していたら岩波書店より出版されている『荷風作品集』なるものを発見した。全十二冊が入っているお得なセットである。しかもそれが中古ではあるものの500円という悲しくなる程の安価で販売されていた。これは買わにゃ荷風の御霊に面目ないと思いたち中には既に持てっいる本もあったがコレクションでもしておこうと思って購入した。

そして手元に届いた。500円ということで状態に関して言えば全く期待していなかったが予想に反してまるで新品同様であった。私は嬉しかった。さて今年はこのまま良い年になるのではあるまいか、と純粋にもそんな風に思ったくらいである。

私は(この作品集を購入するというくらいだから言うまでもないが)荷風文学の大ファンである。好きすぎて荷風を真似て散歩随筆を自ら認めたほどである。

荷風の何が良い?と私は他者から聞かれた間違いなくあくまでも自らの速度で、自らの足で歩むという点である。これはもちろん家風文学に対しての比喩であるがその実生活についても同様なことが言える。

永井荷風(1879年 - 1959年)はその79年の生涯の中でその時代近辺の作家とは全く異質なる人生を歩んだ。幼い頃から漢詩が達者で明治後期に仕事(半ば旅行)の為、アメリカそしてフランスに赴きその現地の風俗をたっぷり楽しみ日本に帰りきてからは浮世絵や遊郭を楽しんだ。その文学も他と一線を画している。様々なバリエーションが彼の文学にあれど一貫して描かれているのが旧時代への郷愁である。ここでいう旧時代というのは江戸時代である。それが為常に進みゆく文明に対して懐疑的で今日の情勢と旧来の情勢を比較して文章に認めているので文が生き生きとしているのだ。急速な速度で西洋化し帝国として世界に挑戦しそして破滅する日本を冷静に観察し日本文化を彩り続けた文学者である。

文学史的に見ると荷風は近代日本文学第二世代と言っても良いだろう。第一世代は森鴎外、夏目漱石、坪内逍遥、二葉亭四迷である。荷風の同時代作家は民俗学者の柳田國男、自然主義作家の田山花袋、ロマン主義の国木田独歩、そして有島武郎である。近代文学第二世代という位置付けでの永井荷風と有島武郎との対比は大変興味深い関係があるのだがそれはまたの機会に今回は割愛させていただく。

最後に荷風文学入門編として格好の短編二編を紹介する。ズバリ『花火』と『深川の唄』である。『花火』は日露戦争に勝利し浮足立った日本を冷ややかに観察する荷風の思想が知れる。そして『深川の唄』は主人公が深川の方面に電車で徒歩で赴く物語である。とにかく描写力が凄まじい。美しき文学とはまさにこのことといった作品である。青空文庫で読めるのでぜひ。

荷風の文学、これまた日記も良い。陽気麗かなる日に読む荷風が日記『断腸亭日乗』はまさに至福の一時である。

ぜひとも新たな出会いの春の季節を永井荷風とご一緒に!

(了)

著者 武蔵 山水

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