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日常は最高の学びの場~伸びしろのある子ってどんな子?~

 長年開催したいと思っていた「認知科学・学習科学を楽しく学ぶ会」も10月24日で5回目の開催となりました。子育て真っ最中の方から、企業での人材育成に関わる方まで、様々な立場の方にzoomでご参加頂き楽しく学ぶことができました。学習科学の理論について、教育実践真っただ中の方々とあれこれ話せるのはとても貴重な機会だと感じています。例えば双子のお子さんたちの学習の仕方が違う理由や、学びの伸びしろとは何かなど、理論と事例を照らし合わせていった勉強会のメモを残しておきます。

<今回のテーマ「転移(活用)」とは?>
 今回の範囲は「授業を変える~認知心理学のさらなる挑戦~」の第3章「転移~学んだことを活用するために~」でした。この転移(transfer)というのは、学習科学で使われる言葉で、ざっくりいうと活用、応用というような意味になります。この転移が可能な”体制化(体系化)された知識"の獲得が学びの目標だというのは、熟達者(expert)研究で分かっています。子育て中のお父さん、お母さんにとっては、これから変わっていく入試の方向として「知識の応用」ということを意識していかなくてはいけませんし、企業でも、研修で学んだ知識が実践ではなかなか使えないということはよくある話です。どのような知識が「使える知識」になり得るのかどのように学べば「使える知識」が獲得できるのか、勉強会では身近な事例もたくさんお伺いすることができました。

<「知識」の定義を確認>
 ところで、学習や教育の話をする時に一番困るのは、人それぞれが持っている言葉のイメージがぴったりとは重ならないことです。一緒に話していてもなんだか噛み合わないという経験は皆さんにもあることでしょう。ですから、今回の重要なキーワードの1つ、「知識」の定義を確認してから勉強会を始めました

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<家庭は最高の学びの場~文脈の中の知識~>
 知識は文脈(背景のある物語)の中で学ぶと、転移しやすくなることが分かっています。逆に学校や研修の知識がそのまま現実の状況の中で使えない理由もここにあります。また文脈なら何でも良いというわけではなく、ある詳細な文脈に固定して学んでしまうと転移ができないことも分かっています。状況の中で学び、その要素を自分なりに抽出して(ここはお手伝いがあったほうがいい)、転移のリハーサルまでできればその後の転移がうまくいく可能性は高まります。
 そう考えると、子どもの場合は毎日の生活が最高の学びの場とも言えそうです。例えば休日にポップコーンを作る時にも、ほんの少し足場をかけて(scaffolding)あげれば、途端に文脈の中での学びになり、知識は算数、理科へと広がりつながっていきます。

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 とはいえ、参加された方からは「このようなつながりは思いつけないかもしれない」というご意見もありました。つながりを考えるヒントは、お子さんが関心があるもの学校で学ぶことご自身のこれまでに学んだこと好きなことをつなげて見せてあげることではないかと思います。難しく考えずに楽しいことをたくさん思い描いて、つないで、一緒にわくわくするのが一番ですね!

<「伸びしろのある子(大人も)」とは?>
 今回の話題の中には「伸びしろのある子ってどんな子?」というものも入れていました。教育や学びの話をすると「伸びしろ」のようなふわふわワードがたくさんでてきますが、学習科学の理論で少しすっきり整理できると思ったからです。学習科学では知識の体制化が学びの目標ですから、伸びしろのある子、つまり新しいことをうまく学んでいける子というのは、知識の体制化の準備ができている子ということになりそうです。

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 これは小学校算数の「折れ線グラフ」を中心にした知識の体制化の例です。ざっくりしていますが、たくさんつながっている知識に、さらに人それぞれの体験などがつながっていきそうなのがわかります。教科を超え、さらに自分の体験と結びついた知識は、さらに広がる可能性が感じられますよね。自分自身の体験と結びついた実感のある情報や感覚が、学びの伸びしろを作っていくと考えられそうです。だから子どもの頃の遊びも大切なのですね。

<双子でも違う学びの姿勢>
 今回読んだ章の中には学びの姿勢(志向)の話もありました。課題に向き合う際に、学習志向の人は新しい課題に前向きに取り組む傾向があるのですが、遂行志向の人は結果が気になるため学習に消極的なようです。このことについて、双子の中学生をお持ちの参加者が、それぞれが学習志向、遂行志向だという話をして下さいました。同じご家庭に育つ双子なのに興味深いです。違いが顕著になったのは目の前に受験が見えてきたからだそう。この志向の違いは、個人の特性とは言えない部分が多く、取り組む課題によるとも言われています。お子さんそれぞれが、受験という課題を違うようにとらえているのがわかります。大人にも言えることですが、学び手の志向をよく観察して学びのモチベーションを保てるように導きたいところです。そしてこのモチベーションは「役に立っている」と思える時に高まることが分かってます。ですから課題が受験となると、それが見えにくいため少し工夫が要りそうです。また高尚なことでなくても「ゲーム性」など、目の前の楽しみでも子どもたちはモチベーションを高められるという話にもなりました。
 

 次回は11月28日(土)10時~11時半です。テーマはぐっと脳の仕組みに近づいて「神経科学~学習を支える脳のメカニズム~」になります。「脳は20%しか使われていない」などが示す真の意味を確認しつつ、脳の仕組みと学習との関係を考えます。


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