見出し画像

第1回Q&A 日本語運用力を育成する授業の流れ 前編

JF日本語教育スタンダードの目標設定、第二言語習得研究に基づく活動の流れ、音声のインプットなど、日本語運用力を育成する授業の流れ、求められる教師の役割について考えた回です。
*この回では、主に、初級1A2〈かつどう〉トピック2 第3課 「日本はいま、はるです」を例にとり、講義が行われました。前編、後編に分けて公開します。


Q1:ドリル練習はしない?


文型のドリル練習について質問です。学習者の口が回らず会話の練習に支障があるとき、発語のためのドリル練習をしたくなりますが、『まるごと』ではドリル練習はしない、と聞きます。「口が回っても会話ができない」より、「口が回らなくてもなんとか伝えられるようになるのを優先する」ということでしょうか。

A1:会話の練習をする前に、発音を滑らかにするという目的でウォーミングアップをしたいときには、会話の音声を使って一文ごとに繰り返してみたり、シャドーイングをしてみたりすると良いと思います。いろいろな人物の日本語で、練習にバリエーションをつけることができます。ご指摘の通り、A1、A2レベルの学習者が「流ちょうに発音できなくてもなんとか伝えられるようになること」を優先させます。トピックで使わない語の活用練習や文型の代入練習、変換練習などは、Can-do会話との関連性がありませんので、それをする必要はないと考えています。
さらに、はじめは発音がおぼつかなくても、会話の練習をしているうちに、「口が回るようになるとよい」という発想もあるのではないでしょうか。会話の練習(〈かつどう〉の「ペアではなしましょう」)は、固定のペアで1回ずつではなく、クラスの人5、6人と相手を変えて同じ会話をするようにします。自分の部分を同じにすると、5、6回話すうちに「口が回るようになる」のではないでしょうか。会話の練習の前にすでにある程度できるようになっている人は、会話で言うことを少しずつ変えてもいいと思います(自分のことを話すのが嘘にならない程度に)。
 
 

Q2:知らない言葉もシャドーイングする?

シャドーイングについての質問です。「ききましょう」に知らない単語や表現などがある場合、それらをフォローしないままシャドーイングをするものでしょうか。それとも、意味をわかった上でシャドーイングをしたほうがいいでしょうか。
 
A2:十分に準備をして「ききましょう」の音声を聞き、内容が理解できたか確認し、さらに「はっけん」で文法・文型の確認までやった後であれば、おそらく知らない単語や表現はほとんどないのでないかと思います。それでも先生として気になるのであれば、まず学習者に聞いてください。学習者自身の意思で確認したい部分があることがわかれば、その部分をできるだけ簡単に、文字も最小限に使うなどして教えてください。学習者から疑問がでなければ、シャドーイングをやってみましょう。
また、Can-doのモデル、「ペアではなしましょう」にも音声があります。学習者にとって「ききましょう」の会話をシャドーイングするのが難しそうなら、こちらを使ってみてもいいでしょう。
 

Q3:シャドーイングの時、スクリプトを見る?

シャドーイングは、スクリプトを見ながら、ですか。
 
A3:「はっけん」のあと、いきなりシャドーイングに入る必要はなく、まず会話文を一文ずつ繰り返してからやればいいと思います。
シャドーイングは、発音、スピーキング、リスニングの向上に役立つと言われていますが、会話のスピードについて行くために、文の少し先を予測しながら追いかけることが必要になってきます。つまり予測の練習になるというわけです。文字を読みながらでは予測を妨げるので、シャドーイングを行う意味が弱くなります。文字ではなく、線の種類や長さで談話の変化を示したり、どうしても必要ならスクリプト全文ではなく、部分的に示すなどして、できるだけ、見なくても済むように工夫しましょう。
 

Q4:音声を聞くだけで内容が理解できるの?

新しい単元に入った時、最初の授業で音声を「聴く」だけで、その内容が分かるのでしょうか。
 
A4:新しい単元は、扉、「きいていいましょう」を経て、「ききましょう」に入ります。扉では写真を見てトピックを導入し、Can-doを確認します。「きいていいましょう」では、場面や基本的なことばを確認し、学習者の既有知識を活性化します。「ききましょう」を行うときも、場面(誰と誰が話しているか)と、タスクや選択肢となっているイラストを確認してから、例題をいっしょにやってみてください。準備をじゅうぶんに行った上で、少なくても2-3回、繰り返し聴くことで内容がわかってくるはずです。
 

Q5:リスニング時「(母国語)で△△ですか?」の質問にどう答える?

最初のリスニングではテキストを見ながら聞いていますが、学習者から「〇〇はどういう意味ですか?」「母国語で△△ですか?」と聞かれた場合は、「推測してみて」と言えばいいのでしょうか。
 
A5:リスニングはスクリプト/テキストを見ないで聞いてください。そのうえで学習者から質問があれば、まずは学習者に自分で推測してみるように言います。隣の人と話し合ってみるのでもいいです。先生は最後に一緒に正解を確認してください。
「理解できない部分を含むインプット」であっても、既有知識や文脈から推測しながら、とにかく聞き進めることが大事です。
 

Q6:聴解中にスクリプトを見せてもいい?

「ききましょう」の聴解練習で答えを確認したあと、確認のためにスクリプトを学習者に見せながら聞くことについてはどう思われますか。会話を文字でも確認したいという学習者にはどう対応しますか。
 
A6:聴解中に文字を見せることは避けていただきたいですが、確認のためであれば、学習者が聞き取れていない部分だけ文字/スクリプトを見せてもいいと思います。文字を見てから聞くのではなく、聞いてから見るようにすると、音声の聞き取りのモニターとしてより効果的です。「ききましょう」でスクリプトを全部見せると、「はっけん」の活動ができなくなりますので、注意してください。
 

Q7:聴解スクリプトを授業でどう使う?

聴解スクリプトをどのように授業に取り入れたらいいか、その例を教えていただけますか。
 
A7:聴解練習は、「理解できないインプット」に耳だけで挑戦することが大事です。そのために、聴解練習の前にはトピックやだいじな語彙や場面を導入し、学習者の既有知識を活性化させておきます。
ここまでやって音声を3回以上聞き、それでもわからないことがある場合は、その部分だけスクリプトを見せる、あるいは文字化して示すようにしましょう。おそらく、母語との違いから、発音上どうしてもわからない部分ではないかと思います。
ところで、「ききましょう」でスクリプト全文を見せると、そのあとの「はっけん」の活動ができなくなりますので注意してください。「はっけん」のときには、言語形式を明らかにする必要がありますので、そのために必要な部分(正しく覚えてほしい部分)を文字で示すことは「あり」だと思います。
 

Q8:言葉の意味を理解してから練習したい学習者には…

言葉の意味をきちんと理解してから練習したい学習者もいると思います。そのときにはどのような対応をするのがいいでしょうか。
 
A8:会話準備の聴解では、準備活動で学んだキーワードや関連語彙から何を話しているのか内容がだいたいわかればよしとします。そして、会話で必要な表現だけはきちんと聞きとるために「はっけん」の活動があります。
「ききましょう」は一言一句聞き漏らさないような聞き方は要求しません。また、わからないことばがあったとしても、全体の理解に影響がなければ聞き逃してもあえて気にしない態度もだいじだと考えています。ことばの意味を全部理解してから聞く(話す)のではなく、聞きながら(話しながら)意味を予測、推測し、モニターし、定着させていくという習得の流れを想定して設計しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?