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第3回Q&A 日本の生活文化から異文化理解能力の育成へ

教科書の中にちりばめられた日本文化を授業の中でどのように扱えばいいのだろうか?という疑問について、また、学習者の異文化理解能力を育成する授業の方法、教師自身が知っておくべきポイントについて考えた回です。

Q1:異文化トレーニングはいつ行う?

バファバファやDIE法等の異文化トレーニングを授業で取り上げる場合、どの段階(日本語レベルや授業回数など)で行えばよいでしょうか?
 
A1:『まるごと』での文化の取り扱いの基本的な考え方は、「ある事象や自己の行動のふり返りからその背景にある考え方や価値観について深めていく」というものですが、その点ではバファバファやDIE法と変わりません。もし授業に余裕があるのであれば、『まるごと』以外に、様々な異文化トレーニングを行うのは良いと思います。しかし、考え方や価値観のような抽象的な話題について話すのは、ある程度日本語のレベルが高くないと難しいと思います(CEFRでも抽象的な話題が話せるのはBレベル以上です)。A1~A2で取り上げる場合は、事象は日本・日本語であっても、話し合ったり考えたりするのは、母語や媒介語がいいのではないでしょうか。また、このような異文化トレーニングは、授業のどの段階で行ってもいいものと考えます。
 
 

Q2:「生活と文化」「ことばと文化」にかける時間

〈かつどう〉の「生活と文化」、〈りかい〉の「ことばと文化」にかける時間は、1回あたりどのくらいを想定されていますか。
 
A2:教師用リソースの「教え方のポイント」では、〈かつどう〉の「生活と文化」は15分~20分程度、〈りかい〉の「ことばと文化」は5分程度を目安として提案しています。しかし国や言語や学習者によって興味関心は様々であり、取り上げやすさも違うと考えられます。そのため、すべての内容を同じ時間で扱う必要はないと考えます。短い時間で扱う内容もあれば、しっかり時間をとって、ゆっくり考えてもらう内容があっても構いません。また「ことばと文化」はそのトピックで扱う表現に関する内容なので、その時に取り上げるのが最善ですが、「生活と文化」は、例えば中間や学期の最後にまとめて扱っても問題ないと思います。
 
 

Q3:媒介語を使ってもいい?

講義では、「媒介語を使用せずにできる範囲で」とおっしゃっていましたが、ペアやグループで話すとき、学習者は媒介語で話していますか。また、『まるごと』を使った授業で、教師や学習者は実際どの程度媒介語を使っていますか。
 
A3:もし媒介語が使える状況であれば、「生活と文化」も「ことばと文化」も、媒介語で行って構いません。しかし、特に日本国内の場合は、媒介語が使えない場合もありますので、その際は「媒介語を使用せずにできる範囲で」よいと考えています。また『まるごと』は、教師も必要に応じて媒介語を使用することは制限していません。海外では現地講師が現地語を使って教えていることも多いです。
 
 

Q4:異文化理解についておすすめの本をご紹介ください

教える側の異文化理解能力も深めていく必要があると思いました。そのための参考になる本などはありますか?
 
A4:セミナー中にご説明したCEFRにおける異文化理解能力の構成要素のモデルについては、以下〈参考〉の書籍に詳しい説明があります。異文化理解能力を育てる授業を考える上で、非常に有益な情報がありますので、ぜひご覧ください。
〈参考〉
相互文化的能力を育む外国語教育―グローバル時代の市民性形成をめざして』マイケル・バイラム著/細川英雄監修 (大修館書店)
 
 

Q5:学習者の異文化理解能力を育てたい

課題遂行能力と異文化理解能力、両方を行ったり来たりしながら伸ばしていく、ということが興味深かったです。課題遂行能力は鍛えれば伸ばせそうですが、異文化理解能力はナチュラルに持っている人がいる一方で、「相手を理解しよう」という姿勢が全く感じられない人もいます。
「相手を理解しよう」というように姿勢が変容するのを待つだけではなく、何か働きかけをしたいのですが、どのような働きかけができるでしょうか。
 
A5:教師が学習者に問いかけ、見守る(待つ)という姿勢を持ち続けることが大切だと思います。学習者の「相手を理解しよう」とする姿勢がなかなか感じられないと、焦ったり諦めたりしてしまうかもしれませんが、教師のできることは、他者の考えを聞いたり、どうして自分はそう考えるのかふり返る時間をできる限り多く作ることだと思います。また、授業中は積極的に参加していないように見えても、ポートフォリオ等に考えたことをたくさん書いている学習者もいます。授業中だけでなく、いつでも気づいたことを記しておけるような場所を作ることも大切です。
 



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