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和楽器の「隆盛と発展」のために

 わたくし左大文字、いよいよ50代が目の前になってきたわけですが、10代から三味線に触れているので、もう随分和楽器や邦楽器に関わってきたことになります。

 その間、いくらかはふわっと和楽器が盛り上がったりした瞬間はあったかもしれませんが、基本的には長らく右肩下がりの状況、というのがリアルなところでしょう。

 先日は「三味線の製造会社がやめてしまう」みたいな話も聞こえてきたり、慌てて「それはまずい」みたいになったりしている状況で、綱渡りが続いていると言ってもよいかもしれません。

 おなじような話では、左大文字は基本的に「沖縄三線」をいじっていることが多かったのですが、三線業界も途中で一回盛り上がりましたが、実際にはまた右肩下がりになっています。

(具体的には、沖縄音楽ブームが何度か本州でも起きているので、そこでスマッシュヒットにはなるのですが、「涙そうそう」とか「海の声」あたり以降は、ゆるやかに楽器のブームも収束に向かっていると思われます)

 とまあ、和楽器や邦楽の未来は、けして安泰ではないのですが、「楽器の隆盛と発展」というテーマでは、ある程度未来予測と分析ができるものになっています。


 その例として、楽器界隈で有名な話に「チター(ツィター)」の件があるのですが、この楽器、映画「第三の男」のテーマ曲としてアントン・カラスが弾いたので、めちゃくちゃ当たりました。

 いわば「チターといえば第三の男」、「第三の男といえばチター」というくらいに大ヒットしたのですが、それ以降、そもそも「チターを弾くための曲」に恵まれず、消滅に向かって、まっしぐらなのだそうです。

 チター人口は、増えることなく、再び消えようとしている、というわけです。

 このことから、楽器界では

「その楽器を弾きたいと思うヒット曲の存在は、絶対である」

ということが、知られるようになりました。そして、付け加えるならば

「それは、今ナウ、現在形の話である必要がある」

ということでもあります。そう!今現在において、その曲を弾きたいという曲が存在していることが、とても大事ということなのです。


 これは邦楽、特に三味線界隈でもおなじで、実は「三味線」を弾く人たちの間で、「津軽三味線系」の人たちが多いのは、明確に理由があるのです。

 それは「三味線音楽の中で、津軽三味線が一番最近に生まれた楽曲だから」ということです。

 チターの話と共通しますね。

 津軽三味線は、知らない人から見ると東北の伝統文化のように感じられるかもしれませんが、明治以降の音楽です。全国的にヒットして広がったのは、昭和年間といっても過言でもないかもしれません。

 三味線自体は戦国時代に日本で広がっていますから、三味線音楽の中で、津軽三味線は「最新で、いまナウにもっとも近い」ので、弾いている人口が多い、ということなのです。

★ 三味線音楽は 「地唄系」→「古浄瑠璃系」「長唄系」→「新浄瑠璃系(常磐津・富本・新内・清元・竹本など)→「端唄・小唄」→「民謡・俗謡」へと変化します。それらの中で津軽三味線は最新のナウい(笑)ジャンルに当たります。


 まあ、そういうわけなので、いくら伝統音楽(歴史ある・価値ある音楽)だと言っても「私は新内をやりたい!」なんて人はほとんどおらず、そもそも教えてくれる教室もありません。ナウなジャンルではないからですね。

 ということは逆に言えば、「ナウで、いまイケイケの楽曲でないと、誰も弾かない」ということなのです。

 三味線の隆盛、邦楽・和楽器の隆盛のためには

「今、ナウのヒット曲を作り出すか、その楽器をナウで使った音楽が当たる」

必要があるわけです。

 そうした「答え、正解」はある程度わかっているものの、では「どんな楽曲が当たるのか」については、これはさすがに世の中のすべての音楽関係者が、日々ヒットを夢見て頑張っていてもうまくいかないように、そこには明確な確約はありません(苦笑)


 ただ、まあ「伝統を大事にすることと」と「今ナウの音楽を大事にすること」は、楽器にとって両輪で大切な要素ということをわかって貰えれば嬉しいです。

 そのどちらかだけだと、楽器そのものが「一発屋」になってしまうのですね(笑)

 世界には実は一発屋のように誕生しては消えていった楽器もたくさんあります。(それらはダイナミックに変化しながら、次の”ナウ”の楽器に吸収されていったのです)


 楽器とはなにか、ということを体感したければ、大阪の万博公園にある「国立民族学博物館」に行ってもらえば、世界中の「あの楽器に似た、ちょっと違ういろんな楽器」に出会えます。ギターにそっくりだけど、ギターではない楽器、みたいなのが何百も並んでいます。

 それらはみな、あるナウい時期に世界のどこかで、一発屋として生まれた謎の楽器たちです。

 そして、その楽器は今、楽器屋さんでは売られていません。楽器のダイナミズムは、「今を生きているということなのだ」ということを実感してもらえると思います。ぜひどうぞ。


 


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